まずは隣町に行こうか
色々あったあと、セーラの店でなんとか一角獣のクエストを受け直した。
たったそれだけのことなのにどうしてこんなに疲れてるんだろうか。
まだ町を一歩も出てないのに。
そんなことを考えながら、僕たちはとある店の前にやってきた。
店といっても無人で誰もいない。
かわりに待ち合わせようのベンチが置かれている。
「時間まで待たせてもらうことにしようか」
僕が座ると、ライムがぴったりと体をくっつけて座ってきた。
「またこのあいだの山に行くんですか?」
「いや、今回のクエストは『一角獣の万能薬』だからね。一角獣のいる場所まで行く予定だよ。ちょっと遠いんだけどね」
依頼されたアイテム「一角獣の万能薬」は、一角獣の角を使用して作られる。
ユニコーンと言ったほうが知ってる人は知ってるかもしれないね。
あらゆる病気を治し、使い方によっては死亡以外のどんな怪我も治してしまうくらいすごいアイテムだ。
その効果は以前にライムに使った通り。
だからそのアイテムの存在が知られると、世界中で一角獣が狙われたんだ。
おかげで一角獣は絶滅寸前にまで数を減らし、一角獣も極端に人間を避けるようになってしまった。
「だから人里離れた場所にまで行かないといけないんだ」
「そうだったんですか……」
ライムが暗い表情でうつむく。
同じく人間から狙われているレアモンスターとして、人に襲われ絶滅寸前になったという一角獣に思うところがあるんだろう。
「カインさん……」
すがるような視線が僕を見る。
安心させるようにゆっくりとうなずいた。
「大丈夫だよ。一角獣を傷つけるようなことはしないから。前のときもお願いして少しだけ譲ってもらっただけだし」
「そうですか、なら安心です」
「目的の場所は遠いからね。まずは隣町に行く予定だよ」
「となりまち、ですか?」
「うん。一角獣は山を三つも越えないとたどり着けないような人気のない山奥に住んでるんだ。だから準備はしっかりとしていかないといけない。そのためにもまずはここよりも大きくて、冒険者用の店がたくさん並んでいるケープサイドに行く必要があるんだ」
「じゃあまた歩きですね」
「いや、歩くと2日くらいかかっちゃうからね。馬車で行く予定だよ」
僕たちが今いるところは馬車の停留所だ。
出発まで3日待ったのも、この馬車を待つためなんだ。
この町は人も滅多に来ない田舎だから、馬車も一週間に一度しかこないからね。
「馬車っていうのは、馬で箱を引っ張るやつですか? 見たことはあるけど乗るのは初めてです。楽しみですね!」
しばらく待っていると、停留所に馬車がやってきた。
といっても馬車自体は昨日からこの町にいて、休憩のために一泊してたんだけどね。
乗客は僕たち以外にはいない。
「ケープサイドまで二名でお願いします」
御者の人に乗車料を払って馬車に乗り込む。
中は狭く、板で作られた座席に布を一枚張っただけの簡素なものだ。
三人掛けの席が左右両側に設置されている。
乗客は僕たちしかいないのでどの席も自由に使って良かったんだけど、ライムはまたしても僕の真横に座ってぴったり体を寄せてきた。
「これが馬車なんですね! 一緒に歩くのもいいですけど、こういうのも楽しそうですね!」
「そ、そうだね」
ライムが真横で満開のヒマワリみたいな笑みを咲かせる。
あまりの近さに思わず視線を逸らしてしまった。
ライムは気を悪くした様子もなくニコニコしている。
何でもこうやって素直に楽しめるのはライムのいいところだと思う。
だから見習いたいとは思うんだけど……。やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
やがて馬車が静かに動き出す。
目的地までは半日くらいの旅だ。
いつもは長く感じる旅だけど。
「あ、カインさん、あれ見てください! 鳥がいっぱい飛んでますよ!」
ライムが僕の服を引っ張りながら、窓の外に向けて歓声を上げている。
今日はあっという間に着いちゃうだろうな。