イヤらしいことってなんですか?
スミスさんの店を出た僕たちは、今度はセーラの店にやってきた。
「おはようカイン」
今日も店の制服姿のセーラが出迎えてくれる。
「今日はなんの用事なの」
「このあいだ失敗した一角獣のクエストをもう一度受けようと思うんだ」
「ライムちゃんも一緒に?」
「はい! カインさんとお出かけしてきます!」
ライムが元気よく答える。
「カインがライムちゃんとねえ。今までずっと一人だったのにずいぶんな心境の変化なのね」
「前回のクエストは一人で大変だったのはあるしね。ライムなら心配ないし、手伝ってもらえるなら僕も助かるから」
「……私が手伝うっていったときは断ったくせに」
「セーラにはこのお店があるじゃないか。僕なんかの手伝いなんて申し訳ないよ」
「そんなの気にしなくていいのに。だいたいこの店だってカインのためにはじめたようなものだし、あんたの頼みだったら、私は……」
「そういってくれるのはうれしいけど、やっぱりそういうわけにはいかないよ」
セーラの店はいつも繁盛している。
態度には出さないだけでかなり忙しいはずだ。
それでも僕のことを気にかけてくれて、とても良くしてくれている。
なのにさらに手伝いまでしてもらうなんて、さすがに悪いからね。
僕にできることは僕でやらないと、セーラにいつまでも心配かけちゃうし。
セーラがわざとらしくため息をつく。
「はあ、もういいわよそんなことは。あなたたちは一緒に住んでるんでしょ」
「ええと、まあ、うん。一応はそうかな」
一応もなにも一緒に住んでるのは紛れもない事実なんだけど、そういう風にいわれるとやっぱり恥ずかしくなってしまう。
まだ三日しか経ってないからね。慣れてないんだよ。そういうことにしていてくれるとうれしい。
「……ライムちゃんがモンスターとはいえ、男女が一緒に住んでるんだから、どうせ毎日イヤらしいこととかしてるんでしょ」
「な、なにいってるんだよ! イヤらしいことなんて……」
してないよ、といいたかったけど、今朝のことを思い出してつい口ごもってしまった。
セーラがめざとく僕の変化に気がつく。
「ふうん、やっぱりそうなんじゃない」
「い、いや、セーラがいうようなことはなにもないよ!」
僕とセーラのやりとりを、ライムがきょとんとして聞いていた。
「いやらしい、ってなんですか?」
「ええ!? そ、それはその……セーラが詳しいんじゃないかなあ」
「はあ!? なんで私に振るのよ!」
怒るセーラから僕は目を背ける。
でもセーラが言い出したことだし。
説明責任はきっとセーラにあるはずだ。うん。
ライムが興味津々の瞳でセーラに迫る。
「セーラさん、いやらしいことってなんですか?」