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最強装備より大事なもの

「王都にいた頃の俺は、そこそこ名前が知られている鍛冶師だったんだよ。

 だけどそうなるとな、客の目が変わるんだ。どんなにすばらしい作品を作ったとしても『俺が作った武器』というだけで誉められるようになる。

 わかるか? どんなにいい武器を作ったとしても、どんなになまくらな武器を作ったとしても、大絶賛されちまうんだ。そんな状況じゃ上達するわけもねえ。腕は落ちていく一方だった」


 スミスさんがどこか感慨深げにつぶやく。


「だが当時の俺はそれをわかってなかった。天才だなんてうぬぼれちまったのさ。気がついたときにはもう手遅れだった。どうやって武器を作っていたのかも忘れていたんだよ。

 それで王都を出てこの町にきたってわけだ。ここなら俺のことを知るやつもいなかったからな。1から鍛冶屋として再出発できると思ったんだよ」


 厳めしい顔つきのスミスさんが、どこか子供のような笑みを浮かべた。


「だから、カインみたいな本物に認められたってことは、俺もちったあまともな鍛冶屋に戻れたってことなんだろう。それが嬉しいんだよ」


「そんなの買いかぶりすぎですよ。僕なんてまだまだです。それにスミスさんは会ったときからすごい鍛冶師でしたよ」


「お前は妙にモンスターに詳しいからな。持ってくる素材はどれも一級品だし、このドラゴンの鱗だってそうだ。こいつはただの鱗じゃねえ。鮮度がいいだけじゃなく、ドラゴンの中で最も希少かつ最も素材として優れている『逆鱗』と呼ばれる部分だ。

 まさかドラゴンを倒したわけじゃないんだろう? いったいどうやって手に入れたんだ」


 そんなにすごい物だったんだ。

 全然知らなかった。


「それはお礼にもらったんです」


「お礼って、騎士団の奴らがくれたのか?」


「いえ、ドラゴンがくれたんですよ」


「ドラゴンがくれただぁ!?」


 正直に言ったらスミスさんがものすごく驚いた。


「ドラゴンってあのドラゴンだろ。凶悪なモンスターがお礼をくれるって、どんなひどいことしたらそうなるんだよ」


「ちがいますよ。なにもしてないです」


「そうです! カインさんがひどいことなんてするわけありません!」


 ライムが急に会話に割り込んできた。


「寝てるところをカインさんが起こしてあげただけです!」


「寝てるドラゴンを起こすって、それはそれですげえ度胸だな……。俺なら近づかずにさっさと逃げるぞ。前から思ってたが、カインはレベル1のくせに妙に度胸があるよな」


「モンスターには少し詳しいので、危険な魔物とそうじゃないのがわかるだけですよ。本当に危険な魔物が相手なら、僕だってすぐに逃げますから」


「ははは、それが一番だな。死んじまったらなんにもならない。生きてこそ次の冒険にもいけるってものだからな。

 それでこの竜の鱗は買い取りでいいのか。こいつなら結構な高値になると思うぞ」


 竜の鱗というだけでも高い値段で取り引きされるけど、さらに希少な逆鱗となれば、価値は数倍から数十倍に跳ね上がるはず。

 僕もついに町の中央に引っ越しできそうだ。

 ライムと一緒でも10年は食べるものに困らないかも。

 でも。


「いえ、もらったものを売るのもなんだか悪いですし、今日は加工してもらおうと思っていたんです」


「ほう、ドラゴンシリーズか! そいつはいいな!」


 スミスさんがむさ苦しい顔を快活に輝かせた。


「カインは弱っちいから装備くらいはいいものをそろえたほうが良いだろうしな! それでなんにする? 剣か? 盾か? なんでもいいぞ!」


「スミスさん、なんか急にテンション高くなってないですか?」


 いつも高いけど、今は特に興奮してるように見える。


「ドラゴンシリーズの装備といったら鍛冶師のあこがれのひとつだからな! それを作れると知って興奮しないやつなんかいねえよ!」


 なるほど、そういうものなんだ。

 でも興奮するのはわかる。

 竜の鱗っていうのはそれだけすごいものだからね。

 防具にすればドラゴンと同じ耐久力を得られ、武器にすればどんなものでも切り裂く最強の武器になる。

 竜の鱗を切れるのは竜の鱗だけ。なんていわれることもあるくらいだ。


 もし竜の鱗を持ってきてほしいなんてクエストがあったら、どんなに低くてもランクはSS級になる。

 一般人が目にすることはまずないくらいのものなんだ。


 そんな竜の鱗を使ってなにを作るか。

 それは昨夜のうちから決まっていた。


「じつは竜の鱗で鍋を作ってほしいんです」

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