新婚初夜
「交尾をしましょう!!」
家に帰ってくると、さっそくライムが大声で宣言した。
そんな大声で言われると近所の人に聞こえちゃうから、もう少し声を落として欲しい……。
「人間の交尾は大好きな人とするって聞きました」
「ああ、うん。まあ、普通はそうだね……」
「わたしはカインさんが大好きです。だから交尾したいです。カインさんはわたしのことが好きですか?」
「えっと……」
僕の瞳をまっすぐに見つめながら聞いてくる。
さすがにそんなにストレートに聞かれると恥ずかしい。
でもキラキラと輝いた瞳は、僕の答えを疑っていない様子だった。
「もちろん、僕もライムが好きだよ」
「えへへへへ~」
ライムの顔がデレデレに溶ける。
そしてごく自然な流れでたずねてきた。
「じゃあわたしと交尾したいですか?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい」
断る理由が思いつけなかった。
恥ずかしさで死ねるとしたら僕はまちがいなくこの瞬間に死んでいただろう。
でもそんなことはないので、ただただ熱くなった顔をうつむかせるしかできない。
それに、その……したくないといったら、それはやっぱり嘘になる。
ライムはすごくかわいいし、それに、僕の好きな人だから……。
対するライムは、それはもう見たこともないほどニッコニコの笑顔になっていた。
「えへへ、じゃあ交尾しましょう♪」
そういうわけで、そういうことになった。
◇
僕の家のベッドは一人用だから、二人が並んで寝るには結構狭い。
そんなベッドの上で、僕らは向かい合って座っていた。
なんでこんな体勢になっているかわからない。
話し合って決めたわけでもないのに、なぜだか自然とこうなってしまったんだ。
「えへへ、これからカインさんと交尾するのかと思うと、なんだかとてもドキドキしちゃいますね」
ライムも照れながらそんなことを言っている。
胸の下で組んだ手をそわそわと動かし、視線もあちこちをさまよっていた。
たぶん僕も挙動不審になってると思う。
まっすぐにライムを見れないし、なにをしたらいいかわからなくて手も上がったり下がったりを繰り返している。
なんだか変な汗まで出てきたくらいだ。
そのままお互い無言の時間が過ぎた。
うう……。
こういうときって、どうやって初めたらいいんだろう……。
いきなり二人して横になったりとか、そういう感じでいいのかな……。
悩んでみたけど答えなんてわかるはずもない。
とりあえず、そういうことは裸でするもののはずだよね。
だから服を脱いでいると、その様子をライムがじーっと見つめてきた。
「ど、どうしたの……?」
「カインさん、服の脱ぎ方がわからないです」
「えっ? でも着替えの仕方は教えたよね……」
「忘れちゃいました」
「ええっ……。別に難しくもないと思うけど……」
「だからカインさんが脱がしてください」
「………………。僕が……?」
なんだろう。それは、とても、恥ずかしすぎる……。
ライムがニコニコしながら両手を僕に差し出した。
脱がして欲しい、ということだろう。
緊張する手を伸ばして、ライムの服のボタンをひとつひとつはずしていく。
服がめくれていくにしたがって、真っ白な肌が露わになる。
そうしていると、これからライムとそういうことをするんだという実感が今さらのようにわいてきた。
心臓がものすごく早くなって、今にも破裂してしまいそうだ。
ライムを見ると、頬が赤く染まっていた。
ライムがそんな表情をするなんて珍しい。
というか、初めてかもしれない。
僕と視線が合うと、照れたように微笑む。
「えへ……、なんだか、カインさんに服を脱がされると、すごく緊張するといいますか……。こんな気持ちになるのは初めてです……」
「僕もすごく緊張してるよ……」
なんだかもういっぱいいっぱいで、自分でもなにをしてるのかよくわからなくなってきた。
手もちょっと震えている。
うう……。いくらなんでも情けなさすぎる気がする……。
やがてなんとか上は脱がしてあげられたけど……。
「やっぱり、下もだよね……?」
ニコッ、とかわいい笑みを浮かべると、そのままベッドの上に横たわった。
ここでへたれたら男がすたる……。
頑張るんだ僕……!
というわけで、なんとか無心になって、横になったライムの服を脱がしてあげた。
見ないようとしても見ないわけにはいかず、見てはいけないところをいっぱい見てしまった……。
だけど、一糸纏わぬ姿になったライムを目の前にすると、そういった感情も消えてしまった。
煌めくような金の髪も、白雪のような肌も、均整のとれた体つきも、すべてが芸術のように美しい。
神様が作った奇跡を目の前にして、恥ずかしさよりも美しさに感動する気持ちの方が強くなってきた。
「ライム、すごくキレイだよ」
ライムが僕に向かって両手を伸ばす。
「キスしてください」
求めに応じて唇を重ねる。
抱き合いながら情熱的にお互いを求め合った。
しばらくしてお互い顔を離す。
ライムが頬を上気させながら見上げてきた。
「やっぱり、キスって気持ちいいです……。それに、裸で抱き合う方がカインさんを直に感じられてうれしいです……」
「うん、そうだね」
お互い裸だから、相手の存在を直接肌で感じられた。
いつもライムが裸になりたがる理由が少しだけわかった気がする。
……少しだけどね。
「これからカインさんとの子供を作るんですね」
「それは、まあ、そういうことだね……」
実際にその通りなんだけど、そう言われるとなんだかものすごくイケナイことをしてるような気がしてくるというか……。
緊張でどうにかなってしまいそうだったけど、いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
ライムは人間の交尾の仕方を知らない。
僕がリードしないと。
覚悟を決め、ライムの瞳を正面から見つめる。
「それじゃあ、いくよ」
「はい」
いつもの無邪気な笑みではない、蕩けるような笑みが僕を迎え入れる。
「カインさんの精子、わたしの中にいっぱいください♡」
◇
事を終えた僕らは並んでベッドの上に寝ていた。
つないだ手のひらに、汗ばむライムの気配を感じられる。
そういえば、汗をかくことも今までのライムにはないことだった。
これも人間になったということなんだろう。
「これが人間の交尾なんですね……」
うっとりとした声が聞こえる。
「子供を作るだけじゃなくて、カインさんとひとつになれることが、こんなに幸せだなんて……。それに、とっても気持ちよくて……。人間の夫婦は、毎日こんな幸せなことをしていたんですね……」
「えっと、まあ、毎日かどうかはわからないけど……」
「これからもいっぱい幸せな思い出を作りましょうね」
ライムの無邪気な笑みに、僕も素直にうなずいた。
「……うん、そうだね。これからたくさん作っていこう」
僕のせいでたくさん待たせてしまったけど、ようやく僕たちは一緒になれたんだから。
「はい、大好きですカインさん」
ライムが笑顔でうなずくと、そのまま僕の上にまたがってきた。
「なので今度はわたしが、カインさんをいっぱい気持ちよくしてあげますね」
正直にいうと一回しただけでかなり疲れたんだけど、ライムはまだまだ元気いっぱいみたいだった。
「えっと……今日はもう遅いから、続きは明日でも……」
一応そう言ってみたけど、ニコッと笑みが返ってくるだけだった。
それはいつものような無邪気な笑みではない。
発情して我を忘れた獣の笑みだった。
「ダメでーす♪ 今までガマンした分、今日はいーーーっぱいするんですからね!」
その日は僕の人生で一番長い夜になった。
明日が最後の更新となります。
長くなってしまったので二つに分けました。
ついに結ばれた二人の最後を見届けてください。




