町一番の鍛冶師
「それで、頼みたいことってなんだ? 結婚の報告に来たんじゃないのか」
「そんなわけないじゃないですか……。今日は珍しい素材が手に入ったので持ってきたんです」
持ってきたものをスミスさんに渡す。
ニヤニヤしていた鍛冶屋のスミスさんの顔つきが急に変わった。
「カイン、こいつはもしかして、竜の鱗じゃねえのか!?」
さすが鍛冶屋なだけはある。
物を見せた瞬間にそれが何であるのかわかっちゃったみたいだ。
竜の鱗を受け取ったスミスさんは、それを叩いたり光に透かしたり、色々な角度から調べはじめた。
「こいつはまちがいなく本物だな。それに状態もいい。なんていったらいいんだろうな。新鮮というか、まるで生きてるみてえだ」
「さすがスミスさんですね。実はつい先日手に入れたばかりなんですよ」
「ってことはまさか、この前に襲ってきたっていうあのドラゴンの鱗なのか!?」
あのときは町からでも見えたらしく、ちょっとした騒ぎになっていた。
だからスミスさんも知ってるんだろう。
「そういやカインたちがあのドラゴンを退治したって噂を聞いたな。そんなことあるわけないって笑い飛ばしといたが、まさか本当なのか?」
「そ、そんなことないですよ。倒したのは騎士団団長のアルフォードさんです」
僕はとっさにそういった。
本当はライムがパンチで倒したんだけど、それだと騒ぎになっちゃうからアルフォードさんが倒したということにしてもらっている。
アルフォードさんの名前を聞いたスミスさんが表情を変えた。
「アルフォードだあ? あの騎士団のひよっこが倒したってのか? そいつはずいぶんと立派になったもんだな」
「お知り合いなんですか?」
「これでも昔は王都にいたからな。騎士団の武器を手がけたこともあったもんだよ」
懐かしそうに語る。
王都騎士団団長になれるのは、貴族中の貴族の生まれでなければならないといわれてる。
そんなアルフォードさんと知り合いだなんて意外だ。
それに、騎士団の武器を手がけるなんて、普通に考えれば相当にすごいことのはずだ。
「スミスさんって、実はすごい人だったんですか?」
「おうおう、なんだ今さら。知ってて贔屓にしててくれたんじゃないのか」
「王都にいたなんてはじめて聞きましたよ。僕はただ、スミスさんがこの町で一番腕がいいなと思ってただけです」
そもそもスミスさんは、『鍛冶屋は口で語るもんじゃねえ、仕事で語るもんだ』といって自分のことは全然話してくれない。
むしろ今日が今までで一番話したんじゃないかってくらいだ。
僕の答えに気を良くしたらしく、スミスさんが大声で笑い出した。
「嬉しいこといってくれるじゃねえか。カインにそういわれるのが俺も一番嬉しいぜ」
「僕なんかにほめられてもしょうがないと思いますけど」
「なにいってんだ。カインこそこの町で一番の目利きじゃねえか」
「僕が?」
そんなこといわれたのは初めてだ。
「この竜の鱗だってそうだ。普通はこんなの持ってこれねえ。この一件だけでもカインの腕がわかるってもんだぜ」
「それを手に入れたのは本当にたまたまなんですけど」
我を忘れて暴れていたドラゴンを助けたら、お礼にもらったものだ。
そんなつもりで助けたわけじゃなかったから、鱗をもらったのは本当に偶然なんだよね。
だからそれを僕の実力とか思われると、ちょっと恥ずかしいというか、騙してるみたいで申し訳ない気持ちになる。
「それに僕なんてまだレベル1のままですし」
「レベル1の冒険者が竜の鱗を持ってくるなんて、そっちのほうがよっぽど大事件だがな」
そういうものなんだろうか。
「つまりカインさんはやっぱりすごい人だったってことですね!」
ライムがニコニコと笑顔になっていた。
まるで自分のことみたいにうれしそうだ。