たくさんのことがあったんだ
アーストの町に戻ってくると、なにをしたというわけでもないのに、見慣れた景色を見るだけでなんだかほっとした。
帰ってきたって感じがする。
やっぱりここが僕の町なんだね。
町に戻って最初にしたことは、セーラの店に向かうことだった。
それもライムを家において僕一人でやってきた。
もう絶対に一人にはしないと約束したじゃないですか! とすごい怒られたので説得するのは大変だったけど。
最終的に、帰ってきたらライムの言うことをなんでもひとつ聞く、と約束することでなんとか許してもらえた。
直前までものすごく怒っていたのに、急に満面の笑みになって送り出してくれたくらいだ。
「カインさんにあんなことや、こんなことを……。えへ、えへへへへへ~……」
なんでもする、はさすがに言い過ぎだったかもしれない……。
でも今回はライムを連れてくるわけにはいかなかったから、しょうがないんだ。
◇
扉を開けると軽やかな鈴の音が響く。
振り返ったセーラが僕を見ると、仕事の手を止めて駆け寄ってきてくれた。
「久しぶりじゃない。今回はずいぶん長旅だったのね」
「そうなんだよ。色々あってね」
「今日はライムちゃんは一緒じゃないの?」
「ちょっと用事があって家でお留守番してるよ」
「ふーん、珍しいわね。ケンカでもしたの?」
「そういうわけじゃないんだけど……。とにかく、話したいことがいっぱいあるんだ」
「あら、それは楽しみね」
そういうとセーラは二人分のお茶を用意してくれた。
僕たちが長話をするときのいつものスタイルだ。
それから僕は、王都であった様々なことをセーラに話した。
今回はたくさんのことがあったから、話もずいぶん長くなってしまったな。
カイゼルさんに会って依頼を受けたこと。エルフの森に行ったこと。武道大会に出たこと。そして、ライムが人間になったこと。
長い話だったけど、セーラは嫌な顔ひとつしないで、ひとつひとつを笑ったり驚いたりしながら聞いてくれた。
僕が切られて倒れたと聞いたときだけは、ものすごく心配し、なぜかものすごく怒られてしまったけど。
アンタはいつも自分のことを考えないとか何とか。
確かにその点は僕も反省している。ライムにもいっぱい心配させちゃったしね。
でもこうしてちゃんと無事だからといったら、ようやく許してくれた。
話しながら、ふとこうしてセーラと二人で話すのに懐かしさを感じた。
昔はクエストが終わってセーラに報告しに来ると、こうやって起こった出来事を話していたっけ。
僕の受けるクエストは薬草採取とかそういうのばかりだから、大して面白い話もできなかったんだけど、セーラはいつも楽しそうに聞いてくれた。
それがうれしくて僕もたくさん話していたんだ。
気がつくと外も暗くなりはじめていた。
そろそろ戻らないとライムも心配するだろう。
そういって帰ろうとして、本来の目的を思い出した。
いけない、いけない。
セーラと話をするのが楽しすぎてここに来た理由を忘れていたよ。
「セーラ、ひとつ頼みがあるんだけどいいかな」
「なによいまさら。カインがアタシに頼みをすることなんて、これまでにもたくさんあったじゃない。今更遠慮するような仲でもないでしょ」
それはその通りなので、思わず苦笑してしまった。
とはいえ、そのお願いを口にするのは少しだけ勇気が必要だった。
やっぱりまだちょっと恥ずかしい。
でもこんなことを頼めるのはセーラしかいない。
だからなんとか勇気を出して、あることを頼んだ。
普通なら、どうしてそんなものが必要なのかと聞いてくると思う。
でもセーラはたぶん、ライムが人間になった話をしたときからなんとなく察していたんだと思う。
だから理由を聞かなかった。
一瞬だけ悲しそうな顔をしたけれど、すぐにそれを打ち消した。
「わかったわよ。最高の一品を用意してあげるわ」
そういって祝福するような笑顔を浮かべてくれたんだ。




