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隔絶された空間にて

「くそっ、なんだあの女は……!」


 虹の継承者を殺したはずだった。

 エルフの加護と虹の力を持った人間のせいでトドメこそ刺せなかったが、あの傷では助かるはずがなかった。


 いや、一度は確実に死んだ。

 魂が肉体から離れるのを確認したのだから。

 あとはそれを取り込むだけだった。


 なのに、あの女の妙な力のせいで瞬く間に傷が治り、死んだはずの命させ再生させてしまった。

 それに、傷を治す際に見せた黄金色の光……。

 それは一瞬だったが、計り知れないほどの力に満ちていた。

 あんな魔法は見たことがない。


「……まあいいだろう。何者かはわからないが、チャンスはいくらでもある。何年でも、何十年でも、確実に殺せる機会を待てばいいだけだ。焦らずじっくりと機会をうかがえば、いずれは我らのものになるだろう」


 そうだ。焦る必要はない。

 これまでの時間を思えば、今更数十年延びたところで誤差にしかならないだろう。


 しかし、それにしても……。


「あの女は何者なんだ……。人間でないことだけは間違いないが、先に奴を始末したほうがいいかもしれないな……」


「あの子はゴールデンスライムだよ」


 突然の声に振り返る。

 そこには、茫洋とした雰囲気を持つ女が立っていた。


「彼女たちは忘れてしまっているだけで、ゴールデンスライムは本来なんにでもに姿を変えることができるんだ。人間でも、モンスターでも、死者を蘇生させる薬でも、ね」


 ……いや、人間の姿をしているが、その気配は明らかに人間ではない。

 そもそもここは「世界の裏側」だ。

 まともな存在では入ってくることもできない。


 警戒するこちらにかまわず、そいつは淡い笑みすら浮かべたまま話し続ける。


「原初の生命体と呼ばれることもあるんだってじいちゃんがいってたよ。神様がこの世界を作ったとき、一番はじめに現れたのは黄金色の光だったって」


「貴様、何者だ……? どうしてそんなことを知っている」


「じいちゃんに教えてもらったんだよ」


 どういう意味かわからない。

 だが、話をすることが目的ではないだろう。


「なにしにここへ来た」


「カレを狙う奴が誰なのか確認しに来たんだ」


「……ふん。目的か。知れたこと。そんなのは……」


「あ、もういいよ。キミを見たらわかったから。確か魔王だっけ? そんなのが昔いたらしいけど、それを復活させたいんだよね」


 簡単に言い当てられて一瞬驚いた。

 まだ何も言ってないどころか、我の姿を一目見ただけだというのに。

 しかし、そもそもこんなところにこれる奴がただ者であるわけがない。

 このくらいはできて当然なのだろう。


「知ってるなら話が早い。協力するなら、魔王様復活の際には幹部に取り立ててやってもいいぞ」


「ボクが聞いた話だと、魔王とかいう人は復活なんて望んでないと思うけど……。どっちにしろ、カレの命を狙うのなら誰であろうと見逃すつもりはないよ」


 ニコリとそいつは笑った。

 その瞬間、背筋が凍りつくような恐怖を覚えた。

 本能が告げている。

 こいつを敵に回してはならない。


 即座にこの空間から離脱しようとする。

 ここは自分で作った空間だ。

 入るのも出るのも自分の意志で自在に行える。


 しかし、できなかった。

 届きそうで手が届かないような、薄い膜のような力で出入りが遮断されていた。


「逃げようとしても無駄だよ。この空間は世界から切り離したから」


 あっさりとそいつはいった。


 世界から切り離すだと?

 それは言葉でいうほど簡単ではない。


 そんなことをするためには、世界の法則に干渉する必要がある。

 絶対不変である世界の法則を意のままに操る力がなければ不可能だ。


「そんなことができるのは“管理者”だけ……。貴様、エルダードラゴンの末裔か……!」


「すごい。よくわかったね」


「神の犬が、我の邪魔をするな!」


 反撃を試みようとしたが、すでに体はピクリとも動けなくなっていた。

 それどころか、足先から感覚が消えていくのを感じる。


「いったでしょ。カレを狙うなら見逃すつもりはないよって」


 切られるわけでも、食われるものとも違う。

 自分の存在が失われていく冷たい気配。

 身動きができないまま徐々に感覚が消えていく恐怖に背筋が凍り付いた。


「やめろ……やめてくれ……!」


 身動きできないのでなにが起こっているのか見ることもできない。

 ただ感覚だけが消えていく。

 足先からはじまった消失は、やがて腰へと至り、そのまま首から顔へと浸食していく。


「ああ……ああ……」


 消えていく……。自分が消えていく……。

 口も失い、ついには声も出せなくなる。


 最後に見たものは、世界から隔絶された空間で薄い笑みを浮かべる女の顔だけだった。


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