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なみだのちから

 真っ暗だった世界に光が差し込む。

 あたたかくて、優しくて、力強い光。

 あまりのまぶしさに目を開けると、そこはさっきまで僕が倒れていた場所だった。


「……あれ、僕、生きてる……?」


「──……ッ!!」


 僕にすがりついていたライムが勢いよく顔を上げた。


「カインさん! 目を覚ましてくれたんですか!?」


「ええと、うん。そうみたいだね」


 ゆっくりと体を起こしてみたけれど、痛みはどこにも感じなかった。

 氷みたいだった体の冷たさもなくなっている。


 恐る恐る胸の傷へと手を伸ばす。


 あれだけ大きなケガをしていたのに、今ではすっかりふさがっていた。

 赤く染まった服だけが、切り裂かれた傷跡を残している。


「カインさん……ッ。良かったです、良かったですよおおおおお!!」


 ライムが抱きついたまま大泣きする。

 涙でぐちゃぐちゃに濡れて、大粒の涙がたくさんこぼれ落ちてきた。


 今気がついたけど、僕の服はライムの涙でいっぱい濡れていた。

 傷跡をふさぐようにたくさんの涙があふれている。

 僕が倒れているあいだ、ずっと泣きっぱなしだったのかもしれない。


「心配かけちゃったみたいだね。ごめん」


「わたしのことなんてどうでもいいです……。カインさんが無事ならそれで……!」


 僕が目を覚ましたことに気がついたシルヴィアとアルフォードさんも駆け寄ってきた。


「カイン殿! 本当に無事なのか!?」


 シルヴィアが慌てて僕の体を調べる。

 本当に何事もないとわかると、アルフォードさんがほっとしたように表情をゆるめた。


「間違いなく致命傷だったはず……。いったいなにが……。まさに奇跡だな……」


 二人だけじゃなく、気が付けば室内には回復術師の人とか、お医者さんとか、たくさんの人が詰めかけていた。

 アルフォードさんが呼んでくれたのかな。


「えっと……。お騒がせしたみたいですみません」


 今更のように気がついたけど、僕が倒れていた床は真っ赤に染まっていた。

 これ僕の血だよね……?

 あらためて見てもすごい量だ。

 みんな驚いていたけど、僕自身も驚いている。

 本当にどうして生きてるんだろう。


 その理由はわからなかったけど、でも、倒れているあいだに声が聞こえていたことはなんとなく覚えている。


 誰かが僕を助けてほしいと泣いていた。

 その願いさえ叶うのならば、他の何もいらないからと。

 きっとその声が僕を助けてくれたんだ。


 それが誰なのかはわからない。

 でも、目の前で泣きじゃくる女の子を見ていたら、自然と手が伸びていた。


「ありがとうライム」


 ライムが泣きはらした目のまま首を傾げる。


「? どうしてですか……?」


「きっとライムが僕を助けてくれたから」


 そういうと、ライムが泣きながらも弱々しく笑みを浮かべた。


「わたしはなにもできませんでしたけど……。でも、カインさんが助かってうれしいです」


「そうだね、僕も助かってよかったよ」


「あの、もしわたしのおかげだと思ってくれているのなら……ひとつだけお願いをしてもいいですか?」


「うん。もちろんだよ」


 僕はすぐにうなずいた。

 たくさん心配をかけたんだからそれくらいは当然だ。

 ライムは目尻に涙をためたまま、ニッコリと笑みを浮かべた。


「最後に言った言葉を、もう一度言ってくれませんか」


 …………。


「……えっ」


 最後の言葉って……それはつまり……。


「聞こえてたの……?」


 指先ひとつ動かなかったはずなんだけど……。

 ライムがますます表情を輝かせる。


「はい。全然聞こえませんでした。だからもう一度聞きたいんです」


 言ってることがめちゃくちゃ矛盾してる……。

 でも今更もう恥ずかしさはない。


 だからもう一度伝えた。


「好きだよライム。僕はライムのことが好きなんだ。だから、これからも一緒にいてくれないかな」


「……本当に、ずっと一緒にいてくれますか?」


「もちろんだよ」


「もう絶対にいなくなったりしませんか?」


「約束するよ」


「わたしはカインさんがいないと生きていけないので、わたしに一人になったときのことを教えようとしたりしませんか?」


「それは……」


 一人でできるようになってほしいことには変わりはないんだけど。


「わかったよ。これからはなんでも二人で一緒にするようにしよう」


 うなずくと、ライムが力いっぱい抱きついてきた。


「はい! わたしもカインさんが大大大大だーい好きです!!!!」


 そういって、さっきよりもさらに大粒の涙を流した。

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