ゴールデンスライムの涙
命ある者はいずれ必ず死を迎える。
そこに例外はなく、竜であれ、魔王であれ、勇者であれ、等しく終わりは訪れる。
それは神が定めた理であり、神ですら覆すことはできない絶対の定理。
その不可侵の法則を覆す力があるとしたら、それは奇跡と呼ぶ他ないだろう。
しかし、この世に奇跡と呼ばれる存在は数あれど、実際に奇跡を起こす物は未だ確認されていない。
死んだ者は生き返らず、不死の薬も存在しない。
この世界に奇跡はないのだ。
それでも。
人は願う。
奇跡よ起これと天に祈る。
失われたものを取り戻すため。
消えたものを再びその手に収めるために。
届かないと知りながら、星に向かって手を伸ばす。
心から願い、叫び、慟哭し、絞り出された魂の声こそが、神の定めを覆す唯一の力になる。
あるはずがないとわかっていても、あるかもしれないと思わずにいられない。
起こるわけがないと思っていても、起こってほしいと思わずにはいられない。
その願いが奇跡と呼ぶのだとしたら、きっと奇跡は神様が起こすのではない。
人が起こすのだ。
かつて世界が生まれる前、この世には黄金色の光だけがあった。
世界創造の礎となった万象流転の構造体。
神の意のままに姿を変え、この世のありとあらゆるものを作り出す、世界さえ生み出せる根源の物質。
「それ」に願いが宿るとき、それは尋常ならざる力を現す。
それを知る神はもういない。
故に、それを知るものは誰もいなかった。
本人ですら知り得ないことだった。
それでも願いは宿る。
万物を造る原初の物質が、少女の願いに呼応する。
一生に一度で構わない。それさえ叶えば死んでも構わない。だからどうかお願いします。あの人を奪わないでください。これが最後のわがままです。これさえ叶うのならば、どんなに辛い運命でも受け入れます。この命を捧げたって構いません。だから、どうかどうかお願いします。
カインさんを助けてください────
祈りをこめて閉じた瞳に、一粒の宝石が宿る。
それは神の定めを覆す力。
運命の代名詞。
幻と呼ばれる存在の、伝説にも等しい小さな雫。
大好きな人を助けてほしいと願う、どこにでもありふれた、奇跡のように美しい想い。
人はそれを「ゴールデンスライムの涙」と呼んでいる。




