謎の呼び声
なんだか色々あったけど、とりあえず着替えをすませて朝食を取ることにした。
昨日のレストランでも食べられるみたいだったんだけど、せっかく台所もあるので今日は自分で作ろうかな。
食材とかも全部そろってるから、すごく便利だよね。
とはいってもこの場で作れる物なんて大したものじゃない。
用意できたのは、簡単なサンドイッチくらいだったんだけど、ライムはすごく喜んでいた。
「昨日のご飯も美味しかったですけど、やっぱりカインさんの作るご飯が一番です!」
「そんなことないと思うけど……。でも、そういってくれるとうれしいよ。ありがとう」
それからしばらくして、アルフォードさんとシルヴィアがやってきた。
そういえば今日は王宮に呼ばれているんだっけ。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます」
「なに、こちらから無理に呼んだのだ。このくらい当然だろう」
相変わらずアルフォードさんは義理堅いというか、すごく真面目だよね。
「けどすみません、まだ準備ができていないのでもう少し待ってもらえますか」
「なに、かまわない。こちらも少し早めに来たからな。むしろ何かわからないことなどがあれば遠慮なく聞いてほしい」
「ありがとうございます。せっかくなので朝食でも食べていかれますか? 僕が作ったものなので大したものではありませんが」
「ほう、カイン君の手作りか。料理の腕も一流だと聞いている。せっかくなのでいただこうか」
そんなに期待されると緊張してしまうけど……。
ちなみにシルヴィアはというと、なぜだかライムの方をじっと見ていた。
「その、ライム殿……。今日はずいぶんとうれしそうというか……。いつもライム殿は笑顔なのだが、今日はいちだんとうれしそうに感じるのだが……。ひょっとして、昨日カイン殿と何かあったのだろうか……?」
……えっ。
驚く僕だったけど、ライムもまた両手を顔に当ててクネクネと身をよじりはじめた。
「えへへ~。わかっちゃいます~? 実は昨日の夜カインさんと……」
「昨日はとっても美味しいご飯を食べたからそれでご機嫌なんだよね!」
ライムが何かをいう前に大声を上げて遮った。
余計な誤解をされる前になんとか話題を変えないと……!
そう思った瞬間、急にめまいがして足下がふらついた。
いったいなんだろう。
昨日のお酒が残ってるのかな。
そう思ったけど、違っていた。
世界がゆらめくような不思議な感覚に襲われる。
『ようやくか』
どこからか声が聞こえた。
すごく遠くから聞こえるのに、耳元でささやいているかのようにはっきりと聞き取れる。
大きくもないし、小さくもないし、高くもないし、低くもない、印象のはっきりしない不思議な声だった。
「誰か僕に話しかけた?」
「? 声なんてなにも聞こえませんでしたけど」
ライムが首を傾げる。
シルヴィアとアルフォードさんも同じようだった。
『夢魔と共謀して我を謀るつもりだったようだが、あいにくとその程度では騙せんよ』
どうやらこの声は僕にだけ聞こえているらしい。
いったいなんだろう?
『夢魔には理性を失わせて心の壁を溶かす力がある。しかし仮にも虹の力を継ぐ者。低級の悪魔ごときでは相手にならないだろう。しかしそれでも抵抗力を下げる効果くらいはある。我の声が聞こえるということは、ようやく効果が現れ、我の手が届くようになったということだ』
「あなたは誰ですか?」
問いかけると、押し殺すような笑い声が響いた。
『我を認識したな。知るということは在るということ。我が刃もまたそこに在る』
その言葉の意味はわからなかったけど、急に僕の胸から、黒いもやのようなものがあふれ出した。




