結婚ってなんですか?
そのお店は僕の家と同じで町の端っこにある。
といっても家賃が安いからという理由じゃないけどね。
このあたりに来るのは初めてだったから、ライムが興味深そうにきょろきょろと周囲を見回していた。
「ここは人間が少ないんですね」
「このあたりは鍛冶屋の人が多いからね。人の少ない場所をあえて選んでるんだよ」
ライムが首を傾げる。
「かじやってなんですか?」
「武器とか防具を作る人のことだよ。僕の知り合いの人もこの辺にいるんだ」
鍛冶屋は装備を作るだけじゃなく、装備の材料となる素材買い取りも行ってくれる。
僕もクエストで手に入れた素材をよく買い取ってもらってたんだ。
今回はいつもとは目的が違うけど。
歩いてるうちにやがて目的の場所が見えてきた。
常に炉には火が入っているため、中に入る前から熱気が押し寄せてくる。
いつも開けっ放しの扉からは、金属を打つ槌の音が絶え間なく響いていた。
僕が入っても誰も気がつく気配がない。
「こんにちわー!」
「わー!」
槌の音に負けないように大声を上げると、ライムも真似をして大声を上げた。
「あはははは! なんだか楽しいですね!」
無邪気にはしゃぎ声をあげている。
よく小さい子供が意味もなく大声を上げてるときがあるけど、ライムも同じ感じなんだろうか。
ライムの笑い声を聞いたからじゃないと思うけど、槌の音がやんで、奥から大柄の男性が現れた。
「おう、カインか。よくきたな」
「こんにちはスミスさん」
筋骨隆々という言葉がよく似合う、すごい大柄の人だ。
毎日槌を振るっているから鍛冶屋の人はみんな体格がいいけど、この人は特別に鍛えられている。
腕相撲なんかしたら、僕なんて一発で町の反対側まで吹っ飛ばされちゃいそうだ。
「……お、その子が噂のカインの嫁か」
僕のとなりでキョロキョロとしているライムに目を向ける。
この三日のあいだで、僕とライムのことは町の人のあいだにすっかり知れ渡ってしまった。
それはいいんだけど、なぜか僕とライムは結婚してると思われてるみたいなんだ。
「ライムと僕はそういうんじゃないですよ」
そのたびに否定するんだけど、誰も信じてくれない。
「ああ、そうだったな。まだ、結婚してないんだっけ。それで挙式はいつなんだ?」
スミスさんがニヤニヤしながら聞いてくる。
まあ一緒に暮らしてるんだからそう思われても仕方ないんだけど……。
ライムが僕の服をつかんで引っ張る。
「カインさん、挙式ってなんですか?」
「お、なんだ嬢ちゃん、挙式を知らないのかい。挙式ってのは結婚するときに行うもんなんだぜ」
地域によっては結婚の習慣がないところもある。
ライムは遠くからきた僕の親戚だとみんなには説明してあるから、スミスさんもそれで知らなかったと思ったみたいだ。
「まあ、夫婦になるための儀式みたいなものだな」
簡単なスミスさんの説明に、ライムが納得したようにうなずいた。
「つまり交尾のことですね!」
「ちがうよ!?」
あわてて否定するけど、ライムはきょとんしたままだった。
代わりにスミスさんが爆笑する。
「がはははは! その通りだな。なんだかんだいっても、やることやらなきゃ夫婦とはいえないからな。それで二人はもう『結婚』したのかい?」
スミスさんが含みのある言い方でたずねる。
これたぶん「結婚」について聞いてるんじゃないよね……。
ライムは軽く頬を膨らませて不満顔になった。
「わたしはいつも交尾をしようっていってるんですけど、カインさんはしてくれないんです」
「ほほう……。嬢ちゃんから誘ってるのに、カインはそれに応えない、と」
ニヤニヤした笑みで僕を見る。
あああこれ絶対ダメな勘違いされてるやつだ。
「今日は頼みたいことがあって来たんです!」
なので本来の目的を頼むことにした。