王都のドブネズミ
アルフォードさんたちも来てくれたので、荷物整理はいったんやめてみんなでお茶でもすることになった。
せっかくこんなに広くてすごい部屋があるんだから、みんなで使わないともったいないよね。
それに、ここは宿の部屋なのに台所もあるし、食材なんかも全部そろっていたんだ。
アルフォードさんによると、ここにある物は全部自由に使っていいらしい。
なので、お祝いに来てくれたお礼に簡単なおやつとお茶を作ってふるまったんだ。
みんな美味しいと言ってくれてよかったな。
やっぱりみんなでいるほうが何倍も楽しいよね。
そうやって休憩していると、新しいお客さんがやってきた。
「ほう、これはこれは。皆さんお揃いのようですな」
現れたのは若々しいおじいさん。
以前に千年苔を依頼してきた人だ。
それにエッジたちの雇い主でもあったはず。
「お久しぶりです。エッジたちに代わってもらったおかげで大会に出場することができました。ありがとうございます」
お礼を言うと、かまわないというように軽く手を振ってくれた。
「なに、君らのおかげでこちらもだいぶ稼がせてもらったからな。おあいこだよ」
「そういえばおじいさんのお名前をまだうかがっていませんでした」
「はっはっは。儂の名前など大したものではないよ。周りからは『ボス』と呼ばれている。必要ならその名で呼んでくれ」
「なるほど、ボスさんですか」
「それはなかなか斬新な呼ばれ方だな」
そんな感じで僕らは談笑していたんだけど、他の人たちは違うみたいだった。
アルフォードさんもニアも、僕とボスさんが仲良く話しているのを驚いたように見ている。
特にシルヴィアがものすごく怖い顔をしていた。
「カイン殿、下がってくれ」
僕とボスさんのあいだに割り込むようにして立ちはだかった。
「どうしたの?」
「カイン殿はこいつと知り合いなのか? カイン殿の友好関係に口を挟むつもりはないが、こいつだけは止めておいた方がいい。王都のゴミ溜めに住む汚らしいドブ鼠だぞ」
ものすごい言いようだった。
よっぽど嫌っているみたいだね。
ボスさんの方も、シルヴィアに向ける目をすうっと目を細めた。
「ほう、そういう貴方はオルヴェリク家の長女様ですな。いつぞやは大変お世話になりましたな」
「世話になった礼として自ら首を差し出しに来るとは、ドブ鼠もずいぶん人間の勉強をしたではないか。その努力に免じて痛みなくその首を切り落としてやろう」
「はっはっは。これは怖い。まさかそんなキレイな剣でドブ鼠の首を切れると本気で思ってるわけではないでしょうな?」
「試してみるか?」
「どうぞ。出来るものならばですが」
「二人ともそこまでにしておくといい」
アルフォードさんの声に、シルヴィアの動きがピタリと止まった。
ボスさんの方をにらみつけたまま、一歩後ろに下がる。
「……アルフォード様がそう仰るのでしたら」
「老人も争いに来たわけではないだろう」
「騎士団総長殿は噂通り話の分かる人のようですな。今日はただの友人として祝いに来ただけ。ごらんの通り、護衛もいないただの老いぼれですよ。仲良くしたいものですな」
「……ふん。今日はカイン殿の記念すべき日だ。薄汚れた血で台無しにすることもない」
「確かに、貴族様の血が流れたとなれば、せっかくのお祭りも台無しになってしまうでしょうな」
「貴様等はいずれ私が駆除してやる。せいぜい短い余生を楽しむことだ」
「最近は歯ごたえのない奴ばかりで退屈していたのですよ。少しは楽しませてもらえるとうれしいですな」
「くくくくく……」
「ははははは……」
なんだか二人して不穏な笑みを浮かべている。
ふと気がつくと、ニアがテーブルの隅でがたがたと震えていた。
「どうしたの?」
声をかけると、青冷めた顔が僕を見上げた。
「どうしたもなにも、表と裏のトップがそろって話し合ってるんですよ……!? 一歩間違えば王都を巻き込んだ内戦にもなりかねない……。この空間やばすぎですよ師匠……」
「え、そうなの? 二人ともいい人だから、そんなことしないと思うけど」
「師匠の器が大きすぎる……好き……」
なんだか唐突に告白されてしまった。
それにしてもニアがここまで言うなんて、やっぱりボスさんもすごい人だったんだね。
いったいどういう人なんだろう。
いつもお読みいただきありがとうございます。
先日最終話までの予約投稿を終えました。10/27に完結となります。
またそれに伴い、ストック維持のため週休2日だった更新を毎日更新に戻しました。
ここまで書くことが出来たのも応援してくれた皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
残り2週間あまりですが、カインとライムの二人の旅がどこに向かうのか、見届けていただけますと幸いです。




