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私からの優勝祝いです

「師匠、優勝おめでとうございます!」


 そういって飛びついてきたのはニアだった。

 僕は小さな体を慌てて受け止める。


「うわっ、ありがとうニア。ずいぶん久し振りだね」


 そういうと、幼い顔が不満そうに膨らんだ。


「師匠がエルフの森から戻ってくるのに30日はかかるっていったからです! ですからそのあいだにモンスター退治でもしてようと思って王都から離れたクエストに向かっていたんです。なのに、まさか数日で戻ってくるなんて!」


 そういえばそうだった。


「ええっと、ごめんね。僕もまさかあんなに早く戻ってこれるとは思わなかったから」


 実際に早くても30日はかかるはずだったんだ。

 けど、エルのおかげであっという間に終わっちゃったんだよね。

 だからあんなに早く帰ってくるのは僕も想定外だった。


「それにしても、クエストに出てたのに僕が戻ってきたってよくわかったね」


 たずねると、ニアが本当に嫌そうな表情になった。


「……あのクソ忌々しい女騎士から手紙が来たんです。師匠がもう戻ってきたから、私がいない分も一緒にいてあげるとかなんとか……。だから急いでモンスターどもを全滅させて今日やっと帰ってきたばかりなんです」


「えっ、今日帰ってきたばかりなの? それじゃあ疲れてるんじゃあ……」


 ずいぶん遠いところまでクエストに行ってたみたいだし……。

 だから心配になったんだけど、ニアは満面の笑みで元気いっぱいにうなずいた。


「はいっ、とーっっっっても疲れているので、師匠にいっぱい癒してもらいます」


 そういって僕にしがみつく力をさらに強くしてきた。

 なんか言動があちこち矛盾しているというか、行動がライムに似ているというか……。


 でも、疲れているのにわざわざ僕のところまで来てくれたのは本当みたいだからね。

 そのあたりには目をつぶることにした。


「わざわざ僕のために急いで来てくれてありがとう」


 しがみつく小さな頭をゆっくりとなでる。

 ニアが照れたように下を向いた。


「あ、いえ、もちろん応援はしたかったですし、可能ならお手伝いもしたかったのは本当ですけど、急いで来たのは単に早く会いたかっただけといいますか……なのでそんな風に言われてしまうと、なんだか申し訳ないと言いますか……」


 恥ずかしそうにもじもじとうつむいてしまった。

 そういう姿を見ていると、やっぱりニアはまだまだ子供なんだなと思ってしまう。

 ついつい妹のような気分になるんだよね。


「ありがとうニア。その気持ちだけでうれしいよ」


 すると、ニアもまたさらにぎゅっと強くしがみついてきた。


「……師匠のお祝いに来たのに、なんだか私ばかりもらってて申し訳ないです……」


「こうして来てくれただけでも十分だよ」


「師匠はお優しいからそういうかもしれませんが、それだと私の気持ちが収まりません……」


 そういって僕から離れると、赤くなった顔で僕を見上げた。


「ひとつお聞きしたいんですけど、ライムさんは今どちらに?」


 そういえば部屋を探検するといってどこかに行ったままだった。

 近くには見あたらないから、他の部屋を見に行ったのかな。


「今はいないみたいだね」


「……ということは、高級宿で師匠と二人きり……」


 小さな声でつぶやくと、やけに決意のこもったまなざしを向けてきた。


「あの、私も師匠になにかお祝いをしたいです。でも、急なことだったのでなにも用意できませんでした」


「本当に気にしなくていいのに」


「いいえ、そういうわけにはいきません。な、なので、師匠がして欲しいことを何でもいってください」


「えっ、僕がしたいこと?」


「は、はい……」


 うなずくニアの顔が耳まで赤く染まっていく。


「その、師匠がしたいことなら、私はなにをされてもかまいませんので……」


「えっ……。なんでもって……、本当になんでもいいの?」


「………………はい」


 震える声で小さくうなずく。

 なぜか僕の顔を見れないみたいだ。

 理由はわからなかったけど、ニアがそういってくれるならちょうどよかった。


「それじゃあ、頼みたいことがあるからこっちにきてくれるかな」


 ニアの手を引いて部屋の奥に向かう。

 その手はなんだか熱かったけど、熱でもあるのかなあ。

 やがて大きなベッドが見えてくると、ニアの体が一瞬だけビクッと震えた。


 いったいどうしたんだろうと思って振り返ってみたけど、耳まで真っ赤になった顔をうつむかせているだけだった。


「ニア、大丈夫?」


「ふぇう!? だだだ、大丈夫ですけど……」


 全然大丈夫に見えない……。


「ええと、ニアに頼みたいことなんだけど」


「は、はい……」


「あそこにあるのが見える?」


 僕が指さした先を見て、ニアがますます体を固くする。


「二人用の、大きなベッドが、あります、けど……」


「うん、あれなんだけどね」


 僕はベッドの、その上に置かれた荷物を指さした。


「まだ宿に着いたばかりだったから、荷物を整理しなきゃって思ってたんだ。悪いけどそれを手伝ってほしいんだ」


「………………………………」


 あれっ、なんでもするっていったのになぜかものすごく嫌そうな顔をしてる……。おかしいなあ。

 そんなに荷物整理が嫌いだったのかな?

 確かに地味な作業だから、苦手な人もいるのはしかたないけど。


 そんなとき、後ろからにぎやかな足音が近づいてきた。


「カインさーん、ただいま戻りましたーっ。この家って本当にすっごく大きいです。あれ、ニアちゃんも来てたんですね」


「……………………………………………………もう帰ってきたんですね」


 帰ってきたライムを見て、ニアがますます嫌そうな顔になっていた。

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