君が欲しいんだ
「さすがカイン君というところなんだろうが、それだとこちらも困るのだよ」
そういって現れたのは、王都騎士団総長のアルフォードさんだった。
「アルフォードさんがどうしてここに?」
「この大会には我々王都騎士団も協力しているのでね」
そういえばアルフォードさんたちも、この大会の警備をしているといっていた気がするけど。
「もちろんそういう背景もあるが、この大会は騎士団が有能な才能を見つけるために協力している面もあるのでな。我々も運営に関わっていたのだ」
「そうだったんですか。それは知らなかったです」
「この大会では優勝者以外にも、特別な才能があると思った者を騎士団にスカウトすることが多いのだよ。
カイン君がこの大会に参加すると聞いてから、おそらくは優勝するだろうと思っていた。キミだけでなく、ライム君もエル君も、我々では歯が立たないほどの実力者だからな」
アルフォードさんは二人の正体を知っている。
対ドラゴン戦闘のために一緒に訓練したこともあるからね。
「そして君が優勝しても、きっと賞品については辞退するのではないかと思っていたのだよ。だから、もしそうなったらひとつ頼もうと決めていたのだ」
「僕に頼みごと、ですか? 言ってくれればいつでも力になりますけど」
そう答えると、アルフォードさんはわずかな苦笑を口元に浮かべた。
「実は、これを頼むのはカイン君にとっては迷惑だろうと考えていたのだ。それはわかっていたから、今まで強く頼めずにいた。
しかし、今以上のタイミングは二度と訪れないだろう。二度は言わない。だから一度だけ私にわがままを言わせてほしい。
カイン君、私の騎士団に入ってくれないか。君の才能が欲しいんだ」
「えっ、僕がアルフォードさんの騎士団に……?」
「そうだ。シルヴィアからも話は聞いている。もちろんライム君やエル君にも入ってもらいたいが、一番はやはり君だ。カイン君のような者こそ、これからの騎士団には必要なのだ」
会場中がざわめいている。
王都騎士団総長が直々に勧誘していることに驚いているみたいだった。
かくいう僕だってすごく驚いている。
だって僕なんかを騎士団に勧誘する理由が全然思いつかないから。
それこそライムやエルの方が向いていると思うんだけど。
でも、アルフォードさんはまっすぐに僕を見つめていた。
もともとこんな冗談を言うような人ではないけど、その表情は真剣そのものだ。
どうして僕をそこまで評価してくれているのかわからない。
けど、アルフォードさんの真剣な気持ちに対しては、僕もまた真剣に答えないといけない。
ありがたい申し出を自分の中でもう一度考え、よく検討した上で、僕は答えを出した。
「せっかくの申し出ですが、やっぱり遠慮させていただきます」
アルフォードさんにはたくさんお世話になっていたから、僕にできることならできるだけ力になりたかった。
でも、やっぱり僕は騎士団みたいなところには向いてないと思うんだ。
王都から離れた小さな町でのんびりと暮らしているのが向いている。
断るのは本当に心苦しかったんだけど、アルフォードさんは苦笑を浮かべるだけだった。
「そうか……。残念だが、無理強いをするようなことではないからな」
「せっかくお誘いいただいたのに申し訳ありません」
「なに、君が謝ることはない。おそらくは断られるだろうとは思っていたからな。それでもカイン君のことをあきらめきれなくてな。最初に言っただろう、これは私のわがままだと。だから気にしなくていい。むしろ困らせるようなことを言ってしまってすまなかったな」
「いいえ、こちらこそすみません。そのかわり、騎士団に入ることはできませんが、僕にお手伝いできることがあれば、言ってもらえればいつでも力になりますので」
「そうか。そういってもらえると心強いな。シルヴィアは残念がるだろうが……。まあこれは私が立ち入る問題でもないからな」
そういって愉快そうな笑い声を上げた。
どうしてそこでシルヴィアが出てくるのかわからないけど……。
でも、そういえばシルヴィアも、僕のことを騎士の理想だとかなんとか言っていたっけ。
レベル1でスキルもない僕なんかじゃまともに戦うこともできないし、騎士団に入っても邪魔にしかならないと思うんだけど……。
「カイン君に騎士団入団の件は断られてしまったが、それはそれとして、優勝商品は受け取ってもらわないと困るな」
「ええっ、どうしてもですか……? 僕には必要ないんですけど……」
「毎回優勝者に渡しているからな。カイン君にだけ渡さないということになると、いろいろと問題が出てくるのだよ。
それに、多少強引にでも渡さないと、君はこういうのは受け取らないだろう」
たくさんお世話になっているアルフォードさんにそこまで言われてしまっては、僕もこれ以上は断れない。
たった今せっかくのお誘いを断ったばかりでもあるし。
なので、少し考えてから答えた。
「それじゃあ……賞金は闘技場や、周囲の建物の修理費に当ててください。エルがドラゴンになって戦ったときに、周囲に結構被害が出ていたと思いますので」
僕がそういうと、アルフォードさんは目を丸くし、それから笑い声を上げた。
「なるほど、そうきたか! 賞金をどう使うかは君次第だからな。そういわれてしまってはこちらも断れまい。それに関しては手配しよう。
それで。もうひとつの副賞の方はどうするんだね」
王宮にどんな願いでもひとつだけ叶えてもらえる、という話の件だろう。
なんでもしてくれる、とはいっても、それはもちろんアルフォードさんや王宮の偉い人が認めてくれる範囲で、ということなんだろうけど。
それはともかく。
「実はちょうど、ひとつだけお願いしたいことがあったんです」
「それはよかった。カイン君はなかなか私たちに恩返しをさせてくれないからね。それで、どのような願いなんだね」
「今日から宿がなくて困ってたんです。なので、宿屋を手配してくれませんか?」
アルフォードさんが、今度こそ目を丸くして驚いていた。




