優勝賞品授与
優勝表彰式が行われるというので、僕はライムやエルと共に再び会場にやってきた。
エルによって破壊され尽くした会場もすっかり元通りにされている。
すごい仕事が早いよね。
もともとたくさんの試合が行われているだろうし、中にはすごい魔法を使う人だっているかもしれない。
だからこういう仕事にも慣れているのかもしれないね。
会場の真ん中に設置された表彰台に上ると、ひときわ大きな大歓声に包まれた。
ここに集まったみんなが僕たちのことを祝福してくれていた。
なんだかちょっと恥ずかしいな。
大観衆に囲まれる中で、大会運営の偉い人だという人からトロフィーが手渡された。
「おめでとうカイン君。君みたいな若い才能が現れて私はうれしいよ」
「ありがとうございます。僕の力じゃなくて、みんなに助けてもらえたおかげです」
「そんなのは誰だって同じだよ。一人で生きている者なんていない。仲間の力もまた君の力だ。そのためのタッグ戦なんだからね」
てっきり他の大会との差別化のためかと思ってたけど、二人一組での参加にはそんな意味があったんだ。
「優勝おめでとう。このトロフィーは君たちのものだ」
渡された大きなトロフィーには、赤くて大きな鳥の羽がついていた。
今にも燃えだしそうなほどに力強い赤色に染まっている。
今回の目的だった火食い鳥の羽だ。
高い魔力と生命力を持ったこれさえあれば、カイゼルさんの薬を完成させることができる。
だけど渡されたのはそれだけじゃなかった。
優勝賞金1000万ゴールドと、副賞として「王宮に望みをひとつ叶えてもらえる権利」があるという。
だけど僕はトロフィーについている火食い鳥の羽をもらえればそれで十分だ。
もともとはそれが目的だったんだし。
1000万ゴールドなんてもらっても使い道もないし、特にかなえてもらいたい願い事というのも思いつかない。
そもそも僕はなにもしてない。
もらう権利があるとしたらライムとエルだ。
なので二人に聞いてみることにした。
「ライムとエルは賞金がほしいとか、なにか叶えてほしい願い事とかあるかな」
たずねると、ライムがすぐに答えた。
「カインさんとずっと一緒にいたいです!」
「ボクも今は毎日楽しいから、特にないかなあ。お金はまだ使い方もよくわかってないから、キミが持っててよ」
二人とも予想通りの答えだった。
僕も特に願い事はないし、お金も特には必要ない。
だから、用意しておいた答えを告げる。
「その二つは辞退します」
「えっ!?」
そう答えると、相手の人が驚いた。
「辞退するってことは、いらないってことか!?」
「はい、そうですけど」
「1000万ゴールドだぞ!? しかも、君が望めば王都の中心街に店を構えることも、王宮に仕えることもできるんだぞ!? なのにそのどちらもいらないというのか!?」
確かにその二つは、人によってはとても魅力的なのかもしれない。
でも僕の町は、あの片田舎にあるアーストの町だ。
王都はにぎやかで楽しいけど、やっぱり向こうの穏やかな雰囲気が恋しくなってくるんだよね。
きっと僕は王都で暮らすには向いてないんだと思う。
たまに遊びに来るくらいならいいんだけどね。
「なので、やっぱりいらないです」
そう答えると、相手の人は絶句していた。
「そんなの……前代未聞だ……」
驚き固まる彼に僕も困っていると、後ろから苦笑するような声が聞こえた。
「さすがカイン君というところなんだろうが、それだとこちらも困るのだよ」
そういって現れたのは、王都騎士団総長のアルフォードさんだった。
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