決勝戦
エルの勝利によって会場は大歓声に包まれた。
あとで聞いた話だと、会場からだいぶ離れた場所でもその歓声は聞こえたんだって。
やがてエルはドラゴノイド、あるいは竜人族のエルと呼ばれるようになった。
ドラゴンの姿だと怖がられるからといっていたエルも、そうやってみんなから受け入れられてすごく喜んでいた。
エルは人間が大好きだからね。
人間の姿になって溶け込むだけじゃなく、竜である自分を受け入れてもらえたのがきっと嬉しかったのかもしれない。
そして次の日の決勝戦。
相手は辞退した。
「ドラゴン相手とかマジ無理です」という理由だったらしい。
まあそれが普通だよね。
◇
「むうー、せっかくわたしの強さをカインさんにお見せしようと思っていましたのに!」
相手が辞退したことで、ライムはちょっと不満そうだった。
悪かった調子も元に戻ったのでまたエルと交代してもらっていたんだけど、結局出番はなかったからね。
相手はまたエルが出てくると思ったから辞退したんだろうから、ちょっと申し訳ないことをしちゃったかな。
もっとも、やる気になっているライム相手だとエルよりも大変だったかもしれないから、結局は同じだったかもしれないけど。
「ボクはとても楽しかったよ」
エルは満足そうだった。
やっぱり竜である自分を受け入れてもらえたのがとても嬉しいみたいだ。
昨日の試合のあとも、いろいろな人に話しかけられたりしていたからね。
まあみんなも、エルは竜化のスキルを持ってると思っていたみたいで、まさかドラゴンが人間化した姿だとは思ってなかったみたいだけど。
「まあいいです。今日活躍できなかった分、カインさんにいーっぱい甘えますから」
「ライムはそういうの関係なくいつも甘えてくる気がするけど……」
「だってカインさんが大好きですから!」
そういって抱きついてくる。
ライムのためだったとはいえ、昨日は無理を言って交代してもらったからね。
少しくらいは僕も我慢しないといけないかな。
そんな感じでライムが抱きついてくるのに任せていたんだけど、一人だけそんな感じじゃない人がいた。
「ていうか皆さん、なんでそんなに落ち着いていられるんですか!?」
そう叫んだのはエッジだ。
「優勝ですよ優勝! 王都の大会で優勝したということは、王都で一番強いってことですよ! ひょっとしたら世界一かもしれないんですよ!?」
「えっ、そうなの。さすがに世界一は言い過ぎじゃないかなあ」
ライムもエルも強いけど、僕自身はなにもしてないし。
それにきっとこういうのに出てない人もいると思うし。
ライムとエルも同じように、特に興味はないみたいだった。
「別にそういうのはどうでもいいですけど、カインさんが喜んでくれるのならわたしもうれしいです」
「うん、ありがとうライム。おかげで羽根も手に入ったからよかったよ」
「えへへ~、カインさんにほめられるのはうれしいのでもっといっぱいほめてください~」
「ボクよりもじいちゃんの方が強いからなあ。そのじいちゃんも、エルフの長老だけは怒らせるなっていってたし」
「やっぱりおじいさんの方がエルよりも強いんだ……。というか、エルフの長老ってそんなに怖い人だったの」
「怖くはないけど、怒ると怖いっていってたよ」
そうなんだ。
失礼なこととかしないで良かった。
「あ、そういえば今の宿屋って選手専用なんだっけ。大会が終わったらやっぱりもう使えなくなるよね。どうしようかな」
「わたしはカインさんと一緒に寝られるならどこでもいいです」
「普通は一緒には寝ないものなんだけど……。でも大会が終われば、宿屋も空くだろうから、どこか空いてる場所を探せば大丈夫かなあ」
「またどこか人間の家を借りればいいんじゃないの」
「あんまり他の人に迷惑をかけるわけにもいかないから」
「へえ、そういうものなんだね」
そんな感じで世間話を続ける僕らを、エッジが呆然と見つめていた。
「これまでもじゅうぶんカインの兄さんたちのすごさを見てきたつもりっすけど……、今初めて兄さんたちの本当のすごさを見た気がするっす……」




