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最強の対戦相手

「夜のカインさんが激しいので腰が痛いんですぅ」


 ライムの甘くとろけるような声が響くと同時に、会場中に怒りの声が響きわたった。


「あんなにかわいいこと腰が立たなくなるくらい毎晩やってるのにもう別のかわいい子を見つけてくるとか全男の敵だ死ね!」

「リアルハーレム野郎に死を!」

「八つ裂きにしろ! 生かして帰すな!」


 なんだかすごい恨みを買ってしまっている……。

 対して、となりに立つエルは不思議そうに周囲を見渡していた。


「周りの人間たちの感情がすごい怒ったものになってるけど、いったいどうしてなのかな」


 その理由はなんとなく想像がつくけど、さすがに自分の口で言うのはためらってしまった。


 やがて僕たちが入ってきた入り口とは反対側から、対戦相手の人たちが姿を現す。


 かなり大柄な男の人と、ローブを着た魔導師風の男性だ。

 どちらもここまで勝ち残ってきただけあって強そうな雰囲気だったけど、特に大柄な男性の存在感がすごい。

 もしかしたら僕の倍くらいの身長があるんじゃないかというくらい大きいため、遠く離れた位置からでもかなりの威圧感を放っていた。


 相手の話はエッジから聞いていたので、ある程度は知っている。

 大柄な男性の名前はハウンド。素手で岩も破壊できるほどの怪力を持っているんだって。

 そして相棒の魔導師がハマー。身体強化系の魔法が得意らしいんだ。


 戦法も単純で、ハマーがハウンドに身体強化の魔法をかけるだけかけて、超強化されたハウンドが一人で敵を倒すという戦い方らしいんだ。


 特に強化されたハウンドは本当に強くて、振り下ろされた鉄の剣を素手で受け止め、そのまま握りつぶしたこともあったってエッジがいっていた。

 本当ならとんでもなくすごい人だ。


 試合会場の中央で向かい合うと、ハウンドさんが僕らに向けて、歯をむき出しにするような野性的な笑みを浮かべた。


「聞いたぜえ。あのミストレードを瞬殺したそうだな。奴とやるのを楽しみにしていたんだが……まさかあいつよりはるかに強い奴と戦えるとはな。やはりこの大会に参加してよかったぜ」


「いえ、僕が勝てたのは運が良かっただけなので。もしシルフを召還せずに普通に攻撃されてたら、どうなったかはわからないし」


「ミストレードは偶然で勝てるような甘い相手じゃねえ。そうやって油断を誘う作戦なら意味ねえからやめときな」


 本当にそういうつもりじゃないんだけどなあ。


 熱いハウンドさんとは対照的に、魔導師のハマーさんは静かにうなずいている。


「パートナーの女の方は初めてみる相手だ。どんなやつなのか情報がない。最初は様子を見るか、それとも全力で行くか。どっちにする」


「んなもん決まってるだろう」


 ニヤリとハウンドさんが口の端をつり上げる。


「最初っから全力中の全力だッ!!」


 両手の拳を打ち鳴らして、獣のように咆哮する。

 同時に、ハウンドさんの体が膨れ上がった。

 筋肉が大きくなるだけじゃなく、全身を真っ黒な体毛がおおいつくし、顔つきがまるで狼のように変形していく。

 元々、僕の倍以上も大きな体だったけど、さらに大きくなって、完全に見下ろされるような体格差になってしまった。


「その姿、まさかワーウルフだったの!?」


 体を変身させるスキルはいろいろあるけど、ワーウルフはその中でも最上位と言われている。

 筋力だけじゃなく、聴覚や嗅覚などの五感も鋭くなるから、かなりやっかいな相手なんだ。


 観客からも大歓声が響きわたった。


「おいおいおい、ワーウルフだなんて聞いてないぞ!」

「ただでさえバカみたいな筋力なのに、さらに強化されるのかよ!」

「こんな奥の手があったとは、これはもう優勝間違いなしだろ!」

「いいぞ、そのハーレム野郎をぶっ殺せ!」


 どうやらハウンドさんたちを応援してる人の方が多いみたいだ。

 変身したハウンドさんの後ろで、ハマーさんがため息をつく。


「なにも今変身することもないだろう。それにそいつは決勝まで取っておくという話だったはずだが……」


「ここで負けたら決勝もクソもねえだろうが!」


「……それもそうだな」


 ハマーさんが杖を掲げる。

 先端に光が灯ると、ハウンドさんの体がさまざまな色の光に包まれた。

 どうやら身体強化の魔法みたいだ。

 ハウンドさんが僕よりはるかに高い位置から好戦的な笑みで見下ろしてくる。


「開始と同時にぶっ飛ばす。そっちも開幕から全力でこいよな!」


 そう告げると、開始線の位置まで戻っていった。

 試合開始前から強化をかけたのは、宣言通り開始と同時に攻撃を仕掛けるためだろう。


 ワーウルフの脚力なら、僕の位置まで一瞬で飛んでくるはず。

 しかも魔法で身体強化されている。

 瞬きする暇もないはずだ。


 そんなハウンドさん相手に、レベル1の僕にできることはなにもない。

 できるとしたらエルだけだ。

 だからとなりの女の子を見ると、なんだかワクワクしたように瞳を輝かせていた。


「どうしたの?」


 たずねると、楽しそうな表情を隠そうともせずに振り返った。


「ねえ、ボクも竜に変身していいかな」

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