ライムのことが心配なんだ
「エルの姐さんもすげえ強いってのは、こうしてそばにいるだけでもわかります。ライムの姐さんの代わりを十分務められると思うんです」
「エルが代わりに出てくれるなら、僕はかまわないけど……」
エルの方を見ると、特に嫌そうな感じではなかった。
むしろちょっとワクワクしているようにも見える。
「ボクもいいよ。たくさんの人間に見られながら戦うってのも今までなかったし、ちょっと楽しそうだからね」
「カインさんをお守りするのはわたしの役目ですよ! ドラゴンなんかにその役目は譲れません!」
ライムが激しく反対する。
けど、だからといってライムを出すわけにはもちろんいかない。
「ダメだよ。ライムはちゃんと休んでて」
「でも、カインさんのお側を離れるのは……。はっ、そうです! 前みたいにカインさんの服になってお守りすれば……」
「ダメだよ」
「えっと、じゃあ……見てるだけでいいので、小さくなってカインさんのそばに……」
「ダメだよ」
「えっと、じゃあ、えっと……」
いろいろ考えていたけど、結局それ以上なにも思い浮かばなかったみたいだった。
「………………ううう、どうしてもダメですか……」
うなだれるライムのそばに座って、その頭をゆっくりとなでる。
「ライムの気持ちはうれしいよ。ありがとう。でも、ライムが僕のことを心配してくれるように、僕もライムが心配なんだ。ライムだって僕が怪我をしたら嫌でしょ」
「そいつを八つ裂きにします」
「……そんな怖いことはしなくてもいいけど……。とにかく、それと同じように、僕もライムに怪我をしてほしくないんだ。だから待っててくれるかな」
「ううう……。わかりました……」
よかったわかってくれたみたいだ。
「……でも!」
そう思ったら、ライムが急に顔を上げた。
「今回だけです! 治ったらまたわたしがカインさんをお守りしますからね!」
「うん、もちろんだよ。またよろしくね」
「……あと、ちゃんと待ってたらご褒美もほしいです」
「なにがほしいの?」
「いっぱいなでなでしてください」
「そんなのでいいならいくらでもしてあげるよ」
落ち込むライムの頭をなでてあげる。
その顔がどんどんとろけていった。
「えへへ~。あと、夜も一緒に寝てください」
「ダメっていってもいつも寝るじゃないか……」
「交尾もしてくださいね」
「……交尾はしないけど……。でも、それだとまた腰を痛めちゃうんじゃないかな」
別に僕が腰を痛めるほど激しくするって意味じゃないけど……。
ライムもショックを受けていた。
「それだと、今後カインさんとはずっと交尾ができないことに……!?」
「……あー、確かにそうなるかもね……」
ライムの体の変化をちゃんと調べてみないと、そのあたりは何とも言えないけど……。
試合が終わったら、ちゃんと調べてあげないとね。
……あくまでもライムの体が心配だからで、交尾をしたいからってわけじゃないからね?
◇
エッジに選手交代の申請をしてもらい、僕とエルは試合会場へと進んだ。
初めは僕たちが現れて歓声も上がったけど、すぐにライムがいないことに気がつくと、ざわめきに変わりはじめる。
やがて、選手がエルに交代されたことが場内に告げられると、ますますざわめきが大きくなった。
「選手交代って、怪我ってことか?」
「圧勝に見えた昨日のシルフ戦も、実は見えないところで高度な駆け引きが行われていたってことか……」
「というか代わりの女の子もすげえ美人なんだが、あいつの周りはどうなってるんだ」
ざわめきが広がっていく。
やがて会場内にアナウンスが響いた。
「急遽選手の交代となった理由ですが、本人が来ておりますので直接うかがってみましょう」
「こんにちわー」
ライムの声が会場中に響く。
場違いなほど明るい声に、僕は違和感を覚えた。
……なんだろう。ものすごく嫌な予感しかしない。
「ここに来て選手交代ですが、どこか怪我でもされたんですか?」
「ちがいますよ」
そう答えると、とろける表情が想像できるような甘い声が響きわたった。
「昨日カインさんと激しい交尾をしたので、まだ腰が痛いんです。えへへ」
死にたい。




