すっごく激しかったんです
動けないライムを背負ってなんとか一階の食堂までついたものの、ライムはまだ立てないみたいだった。
ライムを席に座らせたあと、僕も正面に座る。
やがて朝食が運ばれてくると、ライムが目を輝かせてそれを食べようとして、なぜか急に腕をおろした。
ご飯大好きなライムが食べるのを止めるなんて珍しい。
というか、初めてかもしれない。
「どうしたの?」
心配になって聞いてみると、ニッコリとした笑顔が返ってきた。
「腕が上がらないのでご飯が食べられないです」
「えっ、でも痛いのって腰だったよね……?」
というかすぐに下ろしたけど、さっきまで普通に腕が動いていたような……?
そもそもここに来るまで僕の背中に抱きついていたんだから、動かないはずがないんだけど……。
疑問に思う僕に、ライムがますますニッコリする。
「だからカインさんが食べさせてください」
「………………。えっと。それはもしかして、あーんで食べさせてという……?」
「はいそうですっ!」
元気よく返事が返ってくる。
どうやらそうらしかった。
そんな知識をいったいどこで手に入れてくるんだろう……。
とはいえ、動けないほど疲れているのは本当なんだよね。
食堂まで来れなかったくらいなんだし。
そんな状態だと、腕を動かすのが大変なのもうなずける。
まあ、たんにあーんをしてもらいたいだけな気もするけど……。
少しだけ緊張する気持ちを落ち着けると、スプーンをライムに向けて差し出した。
「えっと、じゃあ、あーんして」
「あーん♪」
開いたライムの口に向かってスプーンを近づける。
ライムがぱくっとくわえると「んん~っ」と満面の笑みを浮かべた。
「ふわぁ~。カインさんに食べさせてもらうと、いつも以上に美味しいです~」
ほっぺたに両手を当ててうれしそうに声をもらす。
ちなみに両手はどう見ても上がっていた。
……まあ、あーんしてあげるだけでこんなに喜んでくれるなら、黙っててあげてもいいかな。
そうやってしばらくはライムにご飯を食べさせてあげていた。
やがて半分ほど食べた頃、僕らのテーブルに近づいてくる人影があった。
「相変わらずキミたちは面白そうなことをしているね」
ショートカットの女の子、エルだった。
「どうしてライムにご飯を食べさせてあげているの?」
「ライムは疲れてて腕が動かないっていうから」
「カインさんに食べさせてもらうと、ご飯がいつも以上に美味しくなるんです~」
「へえ、そうなんだ。じゃあボクも試してみてもいいかな?」
「……えっ?」
エルがとなりに座ると、僕に向かって口を開ける。
これは、エルにもしろってこと、だよね……?
エルの正体はドラゴンなんだけど、人間が大好きで、人間のすることは何でも真似したがる。
だから、自分もしてみたくなったんだと思う。
エルにも同じことをするのはちょっと恥ずかしかったけど、ライム相手に同じことをしたあとだからだいぶ慣れていた。
ご飯をすくったスプーンをエルに近づける。
食べたエルはしばらく咀嚼したあと、うんとうなずいた。
「味は別に変わらないね」
「そりゃまあ、同じご飯だからね」
「でも、キミに食べさせてもらうって事になにか特別な意味が生まれているような気がするよ。それが美味しく感じる理由なのかな」
僕に聞かれてもわからないけど……。
「えへへ~、そうなんです~。やっぱりカインさんはステキです~」
ライムがうれしそうに答える。
いつもならエルのことを止めそうなんだけど、すっかりご機嫌なせいか気にしていないみたいだった。
「ところでライムはどうして自分でご飯が食べられないの?」
「昨日の夜はカインさんにいっぱい気持ちいいことされちゃいまして、それで腰が動かなくなっちゃったんです」
「へえ、そんなに激しい交尾だったんだ」
「はい~。カインさんは交尾になるといつも強引なのですが、昨日の夜は特にすごくて、すっかりトロトロになっちゃいました~。えへへ」
二人がそんなことを話していたけど、僕は黙って聞いているしかできなかった。
ちなみに。
いきなりエルみたいな美少女が入ってきたら、お客さんのあいだでちょっとした騒ぎになるのは仕方がないと思う。
しかも、そんな子がまっすぐ僕のとなりに座り、いきなりあーんしてもらったんだから、注目を集めるのも当然だった。
なのに二人は遠慮せずに、さっきからずっとこんな話をしている。
おかげであちこちから噂する声が聞こえてきた。
「腰が立たなくなるほど激しいのか」
「気弱そうな顔をしておきながら、しっかりやることはやってるじゃねえか……」
「あの子も相当かわいいけど、新しく入ってきた子も相当な美人だよな……。まったく、うらやましいな」
ううう……。
なんだかどんどん変な噂が広まっていく気がするよ……。




