一番大切な人
「どうしてカインさんはすぐ浮気するんですか!?」
「いや、これは浮気じゃなくて……」
「そうです、浮気ではありませんわよ」
フィアも一緒になって否定してくれた。
「カレとは体だけの関係ですから」
「フィア!? 余計ややこしくなることいわないで!」
「フフフ、ちょっとした冗談ですわ。アナタの反応が楽しくてつい言ってみたくなっただけよ」
おかしそうにコロコロと笑う。
うう……。フィアってこんな性格だったっけ……?
なんだか、昨夜の一件以来ちょっと違うというか、なんだか素の性格に戻った感じがするというか……。
逆にライムがよくわかっていない顔で首を傾げていた。
「体だけの関係……? どういう意味ですか……?」
「気持ちいいことをするだけの関係ということですわ。カレを取ったりはしないから安心してください」
フィアが笑顔で全然安心できないことを言う。
「むむ……。よくわかりませんが、カインさんと交尾をしたいだけってことですか?」
「あら、ちゃんとわかってるじゃないですか。その通りですわ」
「……ならいいですけど」
ええ……。いいんだ……。
「でも、カインさんはあげませんからね!」
「フフフ、かわいい彼女じゃないですか。ちゃんと大切にしてあげないとダメですよ」
「もちろん大切にするけど……。ライムは彼女じゃないというか、別にそういう関係じゃないんだけど……」
「あら、それはおかしいですわ」
なぜかフィアが否定する。
「夢の世界は欲望の世界。自分の本性に嘘をつけない世界ですわ。あの世界でのワタクシは、相手にとって一番大切な人の姿になります。その方が相手の心を開きやすいですから。
ワタクシがこの子の姿になったという事は、アナタにとって一番大切な存在はこの子という事です。自分でもそれはわかっているでしょう」
「ええっ……。そ、そんなこといわれても……」
ライムが僕にとって一番大切な存在……。
確かに、ライムは僕が助けてあげないといけないし、僕もライムに助けられている部分は多い。
それはライムの強さだけじゃなくて、一緒にいてくれる精神的な部分も大きいんだ。
それはわかっている。
だけど……。
「もー、さっきから二人だけでなんの話をしてるんですか!?」
ライムがすねた顔で僕に抱きついてきた。
フィアが微笑を浮かべて答える。
「カレにとって一番大切な人はアナタだという話をしていたのですよ」
フィアの言葉を聞いて、ライムの顔がパッと輝いた。
「ほんとうですか!?」
ずいっと顔を近づけてくる。
そう聞かれたら、ライムが大切なのは本当のことだから、僕としてもうなずくしかない。
「あー、まあ、うん。ライムを大切に思ってるのは本当だけど……」
「わたしもカインさんがとっても大切です!!」
最後まで言い終える前に、ライムがメチャクチャうれしそうに抱きついてきた。
ついでにぐりぐりとほおずりまでしてくる。
ううう……。顔が近すぎじゃないかな……。
そんなライムに困りながらも、僕はフィアの言葉を考えていた。
僕にとってライムが大切なのは間違いない。
ずっと一人だった僕に、誰かと一緒にいることの楽しさや、うれしさを教えてくれた。
なにがあっても守らなければいけないとも思う。
今みたいに困ることはあるけれど、一緒にいて嫌だったことは一度もない。
一番大切な人かといわれれば、もちろんそうだ。
だけど……。
僕の視線に気がついたライムが、目を合わせてニコリと笑顔になった。
「カインさん、大好きです」
「う、うん。ありがとう……」
ライムからそういわれるのはいつものことだ。
なのにいつも以上に恥ずかしくなってしまって、思わず視線を逸らしてしまった。




