ずいぶんお楽しみだったみたいっすね
武道大会の選手控え室にやって来ると、あれだけいた参加者もだいぶ少なくなっていた。
昨日の試合でかなり減ったみたいだね。
「カインの兄さん、おはようございます!」
エッジが大声であいさつしてきた。
どうやら僕たちのことを待っていたみたいだ。
腰を直角に曲げるように深々とおじぎをする。
「おはようエッジ。朝から早いね。もしかしてずっと待ってたの?」
「お待たせするわけにはいかないっすから」
「別にそんなこと気にしないけど」
そもそもエッジは参加者じゃなくて、たんに僕らを手伝いに来てくれているだけだ。
むしろ来てくれるだけでもありがたいくらいなのに。
「あ、エッジだ。おはよー」
ライムも気がついたらしく気軽にあいさつしていた。
「ライムの姐さんもおはようございます。昨日の疲れはとれましたか」
それは普通のあいさつだったんだろうけど、ライムはなぜだかニッコニコの笑顔になって答えた。
「はい! カインさんのおかげでいっぱい元気になっちゃいました~」
それを聞いたエッジもニヤニヤした笑みでうなずく。
「ははあ、なるほど。昨夜はずいぶんお楽しみだったみたいっすね」
「はい~、とっても気持ちよかったです~」
うっとりした表情のライム。
エッジは妙にいい笑顔で僕の方を振り返った。
「ライムの姐さんをこんなにさせるなんて、さすがはカインの兄さんっす。やっぱり尊敬するっす」
「ははは、ありがとう……」
でも絶対勘違いされてるよねこれ。
そんな僕らにもう一人の女性が近づいてくる。
「アナタたちはいつも楽しそうでいいですわね」
そういってきたのは黒髪の女性フィアだった。
挨拶を返そうとしたけど、昨夜の夢を思い出してしまって声をかけづらかった。
うう……。
どうしても思い出すと恥ずかしくなってしまう……。
僕がどうしようか悩んでいると、フィアの方から声をかけてきた。
「フフ、昨夜はありがとう。そんなに緊張してどうしたのかしら? お互いあんなことまでした仲なのですから、今さら恥ずかしがることもないでしょう」
「いや、だって、思い出すとどうしても……。むしろフィアは平気なの?」
たずねると、フィアが口元に妖しい笑みを浮かべた。
「ええ、もちろんですわ。なにしろ、あんなに激しく求められたのは初めてで、とっても興奮してしまいましたから……」
「ちょ、ちょっとフィアこっちに来て!」
フィアにまで変なことをいわれると誤解が広がってしまう。
部屋の隅にまで引っ張ると、声をひそめてたずねた。
「昨日のあれは、その、夢なんだよね……?」
「あら、アレとはなんのことでしょう?」
首を傾げつつも、その口元はゆるい笑みを描いたままだ。
明らかに楽しんでいる表情だった。
「アレは、その、夢の中でのことというか……」
「フフ、ご心配なさらずとも、もちろん夢ですわ。正確には違いますけど、肉体ではなく意識だけで体験した出来事という意味では、夢と同じといっていいでしょう」
「そ、そうだよね、やっぱり」
うん、よかった。
なにしろライムが昨夜は僕に、その、色々としてもらったみたいなことをいっていたから、心配していたんだよね。
そんな僕に向けて、フィアがクスリと笑みをこぼす。
「ただし、夢の中で手を伸ばすと、現実の自分の腕も伸びていることはよくあることです。アナタが寝ているときに、一緒に寝ている彼女になにをしているのかまでは、ワタクシにはわかりませんわ」
「……。え、それって、つまり……」
「ちょっとカインさん、そいつと二人きりでコソコソなにしてるんですかーっ!?」
密談を交わす僕らのあいだにライムが強引に割り込んできた。




