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夢のような時間でした

 目を覚ますと宿屋のベッドの上だった。

 窓の外には朝日が昇っている。

 夢の中にいたフィアの姿はいなくなっていた。

 どうやら戻ってきたみたいだね。


 夢の中では色々あったけど……、あれは夢だったんだよね?

 夢の中のフィアは夢じゃないみたいなことを言ってたけど……。

 別に現実に起きた事じゃないんだから、早く忘れよう。うん。あれはただの夢だったんだから。


 とりあえずベッドから降りようと体を起こすと、布団の中で誰かが抱きついているのに気がついた。

 確認してみると、ライムだった。

 そういえば断りきれなくて結局一緒に寝ることになったんだっけ。


 とはいえ、僕に抱きついているというよりは、僕に寄り添ったままぐったりとしてるって感じだ。

 服もすっかりトロトロに溶けているし、全身を弛緩させてシーツの海に沈んでいた。

 まるでとても気持ちいいことがあったあとみたいだ。


「……本物、だよね?」


 つい疑って金色の髪をなでてみる。

 さらさらとしたさわり心地はいつものライムだったけど、他の人と比べたことがあるわけじゃないから本人かどうかの確認にはならなかった。


 そんなことをしていたら、やがてライムが目を覚ました。

 僕に気がつくと、ニコリと笑みを浮かべる。


「えへ……。おはようございますカインさん……。朝からおそばにいられて幸せです……」


「おはようライム。なんだかずいぶんぐったりしてるけど、どうしたの?」


 そうたずねると、ライムの表情が甘くとろけていった。


「だって……昨夜のカインさんはとってもすごくて、わたしのことをいっぱい気持ちよくしてくれましたから……」


「え……?」


「まるでわたしの弱いところとか、感じるところとかも全部知ってるみたいで……あんなにすごいのは初めてでした……」


「……ええっと、それは夢の話なんだよね?」


 だってあれは夢だったはず。

 だからライムがそう感じるのもなにかの間違いだ。


 僕がたずねると、ライムが幸せそうに微笑んだ。


「はい、夢のような時間でした……♪」



 朝は宿屋の食堂でご飯を食べることにした。

 ライムがものすごい勢いで朝食を食べていく。


「昨日はカインさんとの交尾でたくさんエネルギーを使ってしまいましたから。いっぱい食べて補給しなければいけません」


「えっと、昨日は交尾とかしてない、よね……?」


 僕には夢の記憶しかないから怖くなってたずねてみる。

 ちなみに夢では交尾というか、そう呼ばれるようなことはしなかった。本当だよ。

 フリだけだってフィアもいってたからね。


 でも、ライムは大好きなご飯を食べる手を止めて、表情をデレデレに崩した。


「……えへ、えへへへへ~。思い出すだけでニヤけてしまいます~」


 見てるだけでこっちまで恥ずかしくなるような、幸せいっぱいの表情だった。

 ライムがそういう顔をしていることは、僕にとってもうれしいことではあるんだけど……。


 すると、となりで食事をしていたおじさんが声をかけてきた。


「朝からうらやましいねえ。やっぱり若いもんはそうでないとな」


「あ、いや、僕とライムはそういうわけじゃないんですけど……」


「はい~、わたしとカインさんはまだ夫婦じゃないんです~」


「へえ、婚前旅行みたいな感じか?」


 それも違うんだけど、いっても信じてもらえなさそうな気がする……。


「そんなかわいい子とうらやましいことだな。でも気をつけた方がいいぜ。噂によると、この王都にとんでもないサイコ野郎が来てるそうだからな」


「そうなんですか? そんなに危険な人がいるって話は聞いたことないですけど」


 もし本当ならアルフォードさんとかシルヴィアに報告しないといけない。

 そう考えていると、おじさんも神妙な顔つきでうなずいた。


「ああ、なんでもあのS級ハンターのニアを雌奴隷として連れ歩いてるらしい」


「………………えっ……?」


「名前は……なんだっけな。忘れたが、他にも美人騎士を侍らせて街中を闊歩してるって噂だ。アンタもそこの子を奪われないように気をつけるんだな。俺もしばらくは早めに帰ってかみさんを守る予定だよ。アンタなんか来なくても平気だよ、なんていわれちまうんだがな。はははっ!」


「は、ははは……」


 おじさんは豪快に笑っていたけど、僕はとても笑える気分じゃない。


「悪い人もいるんですねえ」


 ライムの無邪気な言葉にも、僕はひきつった笑みを浮かべることしかできなかった。

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