ドリームワールド
「あれ、ここは……?」
僕は目を覚ますと不思議な空間にいた。
まわりを見回してみても、なんだかぼんやりとしてて、宿屋の中にいるのかどうかさえわからない。
もやがかかってるというか、不思議な感覚だ。
それにただのもやじゃない。
なんだか少しあたたかくて、甘い香りがする。
ついさっきまでライムと一緒に寝ていたと思うんだけど、ここはいったいどこなんだろう……。
ベッドだけは残っているけど、ライムの姿はどこにも見えず、僕一人しかいなかった。
見たことのない空間だったけど、この感覚にはなんとなく覚えがある。
たしかアルフォードさんの家に泊まったときに見た夢だ。
あのときは確か……。
思いだそうとしていると、急にベッドの上に誰かが現れた。
さっきまで誰もいなかったはずなんだけど、いったいどこから来たんだろう。
周囲の景色と同じように、その人の顔もおぼろげで誰なのかはっきりとはわからなかった。
わからないはずなのに、なぜだか僕はその名前を口にしていた。
「ライム?」
そう思ったら、おぼろげだった姿がはっきりしてきて、ライムと同じ姿になった。
そのまま口元を妖しげに歪ませる。
「フフ、そう。この姿がアナタにとって一番大事な人なのね」
声も姿もライムそのものだ。
なのに、なんだか違うような気がする。
ライムの姿をしたその人は、寝ている僕の胸にすがりつくと甘い声を出した。
「カインさん……。わたしのことをめちゃくちゃにしてください……」
「だめだよライム。交尾はしないっていってるでしょ」
そういうと、ライムは驚いたように狼狽した。
「えっ? ど、どうしてですか。わたしのことが嫌いなんですか?」
「いや、どちらかといえばもちろん好きだけど、そういうことはもっとその、時間をかけてというか……」
「……その気持ちはとてもうれしいです。でも、ワタクシには時間がないのです……。だから……!」
そういうと、ライムはいきなり服を脱いで裸になった。
それを見て僕は確信する。
これはやっぱり夢だ。
だってライムが服を脱ぐなんてあり得ない。
ライムの正体はなんにでも姿を変えられるゴールデンスライムで、服も実はライムが体を変化させて作っているものだ。
つまりライムの一部だから、脱ぐってこと自体があり得ないんだ。
もし裸になりたいと思ったらその場で吸収して消してしまうからね。
だからといって、目の前で裸になられたら恥ずかしいんだけど。
「だめだよライム。そんな姿じゃ風邪引いちゃうよ」
夢の中とはいえ裸はやっぱり良くないと思うし、僕も目のやり場に困る。
布団をライムの肩に掛けてあげると、二度寝をするためにベッドのうえで横になって……。
「……ってなんで襲わないのよ!」
ライムが急にそんなことをいって怒り出した。
「ええっ、襲うなんて、そんなひどいことできるわけないよ」
「ひどいことって……。女の子から誘ってるのよ!? そんなの襲わないほうが男の恥なんでしょう!?」
「まあ一般的にはそうなのかもしれないけど……」
「なんで……。アナタの心を読んで一番大事な人の姿になったのよ。誰だって好きな人に迫られたらうれしいでしょう。この姿での誘惑に耐えられるはずがないわ! それなのにどうして……」
「でも夢だよねこれ」
「……ッ! 気づいて……! いや、それならそれこそ好き勝手にするものでしょう! 夢の中ならなにをしても許されるのよ!?」
それはそうかもしれないけど……。
「夢の中とはいえ、黙ってそんなことしたらライムに悪いよ」
いやまあライムはむしろ喜ぶかもしれないけど……。
でも僕の気持ちとしては、やっぱりそんなことはできないんだ。
そうしていると、急にライムが胸を押さえて苦しみだした。
「ど、どうしたの?」
「主が、早くしろと、急かしているのよ……。結果を出さなければ、ワタクシの命はないと……」
息苦しそうな様子でうずくまっている。
その姿は見慣れたライムの姿だったけど、なんだかもやがかかったようにおぼろげになり、やがて黒髪の妖艶な美人に変わった。
「あれっ、フィア?」
「くっ、しまった……。幻覚が解けて……っ」
フィアが焦ったように自分の体を見つめていた。




