いっぱい頑張ったご褒美です
選手のために用意された宿屋には、一階に食堂が併設されている。
そこで夕食を食べたあとは、早々に部屋へと戻ってきた。
「今日はいっぱい疲れましたー」
そういってライムがベッドの上に体を投げ出した。
「そうだね。今日はいっぱいがんばってくれたもんね」
それは本当だ。
ライムのおかげで勝てたんだから。
だからいっぱい休んでほしいと思う。
ただ……。
「ライム、そっちは僕のベッドだよ」
どうして当然のように僕のベッドに入るんだろう。
「はい、もちろん知ってます」
ニッコリと笑顔で答える。
「疲れたらカインさんにベッドの中でいやしてもらうといいって、あのエッジとかいう人間が言っていたんです」
「あの人は……」
思わず頭を抱えそうになった。
僕とライムをそういう関係だと勘違いしていたからかもしれないけど……。
ライムが、僕のベッドに寝転がったまま、僕に向けて両手を伸ばす。
「今日はとっっっても疲れたので、カインさんにいーっぱい癒してもらうんです」
「いや、それは……」
「……ダメですか?」
潤んだ瞳でそういわれてしまうと、答えに困ってしまう。
それにライムのおかげで勝てたんだから、少しくらいは頼みを聞いてあげないと悪い気がする。
とはいえ、癒すといわれても、僕には回復魔法を使えるわけでもないし……。
「……えっと、それじゃあライムは、どうしてほしいの?」
「カインさんの子供がほしいです」
「いや、それはさすがに……」
その、色々と……。ねえ?
それにここだと誰に聞かれるのかもわからないし……。
いやそもそもそれだと疲れがとれるどころか、逆にもっと疲れるのでは。
いや僕はそういうことをしたことないからわからないけど……。
困っていると、ライムもすぐに答えを変えた。
「それじゃあ、いっぱいぎゅーってしてください」
そういってもう一度僕に向かって両手を伸ばす。
「それくらいなら、まあいいかな……」
「ではお願いします!」
ライムが寝転がるベッドに近づいていく。
近づく度にライムの瞳がキラキラと輝いていった。
まっすぐに僕を見つめていて、僕にぎゅーってしてもらうのを待ちきれないといった感じだ。
うう……。そんなに期待されると、なんだか恥ずかしくなってくる……。
とはいえ、ライムはいっぱい頑張ってくれたんだ。
僕も少しは頑張らないと。
ライムはベッドに寝転がったままだから、抱きしめるためには僕もその上に重なるように寝転がらないといけない。
ライムの上に覆いかぶさるようにして両腕を回すと、ライムもすぐに強く抱き返してきた。
そのままニコニコとした顔で頬をすり寄せてくる。
なんだかよくなついた猫みたいだ。
「えへへへへ~。カインさんにこうされるだけで、疲れなんて吹き飛んじゃいます」
「そ、そうなんだ」
「はい、そうなんです!」
「それで、いつまでこうしてればいいかな……」
この体勢はなかなか恥ずかしい……。
ライムは笑顔のままで答えた。
「ずっとです」
「ずっと?」
「明日の朝までずーっとです♪」
「それじゃあ寝られないんだけど……」
「わたしは気持ちいいから大丈夫です! カインさんは気持ちよくないですか?」
気持ちよくないといったら嘘になる。
ライムの全身がやわらかくてあたたかくて、こうして抱き合ってるだけでも幸せに包まれているような気持ちになる。
ただ、なんというか、色々なものが当たっているから、ものすごく恥ずかしい……。
ライムが真正面からじーっと僕の目を見つめてくる。
答えを聞くまで放さないといった表情だ。
しかも抱き合ったままだから、ほとんど目と鼻がくっつきそうな距離だ。
ずっとこのままだと僕の心が保たない。
観念して答えた。
「ライムとこうしてるのは、僕もその、悪い気はしないけど……」
「……!!」
ぱあああっ、っとライムの顔が輝く。
答えを聞かなくてもどう思ったのか丸わかりの表情だった。
「つまりカインさんもわたしと寝るのがうれしいってことですね!!」
「ええっと……。うん、まあ、そうとも言えるかな……」
間違いではないから困ってしまう。
そのあいだにもライムはますます強く抱きついてきた。
ライムの力は強いから、こうなってしまうと僕にはふりほどくことはできない。
ライムが寝るまで待つしかなさそうだ。
ただ……。
「カインさんもうれしい……、わたしと寝るのがカインさんもうれしいんだ……。えへ、えへへへへ~……」
すっかり表情をデレデレに溶かしている。
これは当分眠りそうにないなあ……。




