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カインの兄さんもたいがいっすよ

 一回戦を無事突破した僕らだったけど、その後さらに2戦もライムのおかげで危なげなく勝利できた。


 どんなに剣で攻撃しても、魔法を打っても、ライムにはまったく効かないからね。

 なかには、相手が剣を抜いた瞬間に剣が壊れちゃったこともあったくらいだ。

 あとで聞いてみたら、あれもライムがやったみたいだった。


 改めて思うけど、やっぱりライムはすごいんだなあ。


 全部の試合を終えて控え室に戻ると、エッジが満面の笑みで駆けつけてきた。


「やっぱりカインの兄さんたちはすごいっす! お二人に交代して正解でした!!」


 僕の手を両手で握ると、ブンブンと上下に激しく振った。


「いや、すごいのは僕じゃなくて、ライムなんだけど」


 実際その通りだ。

 僕はほとんどなにもしていない。

 目立たないように本気を出さないでとお願いしてあったけど、それでも圧倒的な力で相手を倒してしまった。

 僕はそれを後ろから見ていただけだ。


 なんだけど、エッジは首を振って否定した。


「もちろんライムの姐さんもすごかったですが、カインの兄さんもたいがいでしたよ」


「えっ、僕なにもしてないけど……」


「あのサーベルタイガーを一瞬で手懐けたじゃないっすか。あのビーストテイマーはこの大会の常連で、毎回強力な魔物を従えてくるんです。あいつ自身もかなりの高レベルのはず。それなのに、あんなにあっさりと主従関係を上書きするなんて。もしかしてテイマーのスキルも持ってるんですか?」


「いや、そんなのはないよ。というか、僕自身はなんのスキルも持っていないんだけど……」


 それは本当なんだけど、エッジは笑って聞き流した。


「はははっ! 兄さんは冗談まで上手いっすね。あれだけ強いのにスキルがないなんてあり得ないですよ。まあスキルを他人に教えられないのは当然っすけど。特にさっきの対戦で兄さんは注目されましたからね。今もまわりのライバルが兄さんたちに注目していますよ」


 言われて周囲を見渡してみると、参加者たちが鋭い視線で僕らのことを見ていた。

 最初はまたライムが変なことを言って怒らせたからなのかなと思っていたけど、どうも雰囲気が違っているみたいだった。


「あいつらが例のコンビか」

「オリーブとかいう女が一人で全部倒したらしいぞ」

「俺が聞いた話だと、あの男もサーベルタイガーを素手で止めたと聞いてるが」

「虎ごときなら俺でも止められるが……。いずれにしろ、要注意ってことだな……」


 確かに注目を集めているみたいだ。


 周囲を見渡していると、僕たちのほうに近づいてくる女性の姿が目に入った。

 黒髪でミステリアスな姿に見覚えがあったため、僕からも声をかける。


「やあ、フィアも来てたんだね」


「フフ、見てたわよ。さすがアナタたちね。三回戦突破おめでとうございます」


「ありがとう。わざわざ応援に来てくれたんだね」


「なにしろパートナーですもの。応援するのは当然でしょう」


 この大会に出場した目的は、優勝して火食い鳥の羽を手に入れることだ。

 だからフィアも様子を見に来たみたいだ。


「それで、優勝はできそうかしら」


「さすがにそれはわからないけど、最善を尽くしてみるよ」


「わたしがいるんですからカインさんには傷ひとつつけさせません。アンタみたいなのの出番はないですよ!」


 ライムが威嚇すると、フィアが悠然とほほえみ返した。


「ずいぶん頼もしいわね。これなら優勝まちがいなしかしら」


 その様子を見て僕は安心した。

 アルフォードさんの家にいたときはなんだか様子がおかしかったんだけど、今はだいぶ元に戻ったみたいだ。

 前までだったら、僕が声をかけるだけで床に卒倒していたからね。


 ただ、まだちょっと僕から距離を取っている気がするけど……。


「ところで、今はこの近くの宿に部屋を取っているという話でしたけど」


「ああ、うん。そうなんだ。選手用の宿があるらしいから、そっちを利用させてもらってるんだよ」


「まさかカインさんと一緒に寝るつもりですか!?」


 ライムが警戒心をむき出しにして僕とフィアのあいだに立ちはだかる。

 対するフィアは静かに微笑するだけだった。


「心配しなくても平気ですわ。今はどこにいるのかを確認したかっただけだから。もちろん、カレがいいというのならワタクシも同じ部屋にしてもらいたいのだけれど」


「絶対にダメです!!」


 僕がなにかを言う前にライムが強く拒否した。

 まあ僕としてもフィアまで同じ部屋になるのは困るから、それはいいんだけど……。


「フフ、冗談よ。念のため確認をしておきたかっただけだから。明日も試合があるんでしょうから、今日はちゃんとゆっくり寝るのよ」


 そう言い残すと、元来た道を戻っていった。

 その背中にライムも負けじと言い返す。


「言われなくても今日もカインさんと一緒に寝るんですからーっ!」


 去っていくフィアにも届くよう、待機場全体に響くほどの大声だった。


「あんな美人と毎日寝ている……?」

「大会中だってのに余裕だな……」

「奴を倒さなければならない理由がまたひとつ増えたようだな……」


 ううう……。

 なんだかよけいな注目を集めてしまった気がする……。


「はあー、すっごい美人でしたっすね。さすがカインの兄さん、あんな人とも知り合いなんすねえ……」


 エッジはなにかに見入られたようにずっとフィアの背中を追っていた。

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