だって僕猫好きだし
「ふん、考えたってわかるはずもないか。どんな隠し弾を持っているのか確かめてやる。いけっ、サーベルタイガー!」
振り下ろした鞭が鋭い音を立ててサーベルタイガーの体を叩く。
空気が震えるような方向を上げると、僕らに向けてものすごい勢いで駆けだした。
周囲の観客も一気にヒートアップする。
悲鳴のような声も混じっていて、もう何を言ってるのか聞き取れなかった。
サーベルタイガーは、巨大な牙の生えた口をめいっぱいに開くと、ライムめがけて飛びかかった。
巨大な爪と鋭い牙。
ただの鉄の鎧なら、そのどちらに触れても紙のように引き裂かれてしまうかもしれない。
だけど、ライムはその場に立ったまま、飛びかかってきたサーベルタイガーを片腕で受け止めた。
すさまじい勢いだったのに、その場でピタリと停止する。
受け止めたライムの足が少しだけ地面にめり込み、風圧で服が揺れる。
それだけだった。
「……は?」
間の抜けた男の人の声が聞こえる。
周囲の観客も静まりかえっていた。
他の会場では今も戦いにあわせて歓声が響いているのに、僕らの周りだけ静寂に包まれている。
「ぐるるるる……ッ!」
サーベルタイガーが獰猛なうなり声を上げる。
首を振ろうともがいたけど、ライムの手にガッチリとつかまれているせいで動けないみたいだった。
凶悪な爪を備えた前足がライムの体を何度もひっかいたけど、ライムの体どころか服にすら傷ひとつ付かなかった。
「カインさん」
サーベルタイガーを片手で捕まえたまま僕を振り返る。
「虎って美味しいですか?」
「ぐるるっ!?」
サーベルタイガーがなにやら悲鳴のような声を上げた、気がする。
さすがに虎の声まではわからないけど……。
でも、4つの足で必死に地面をかいて下がろうとしていた。
もちろんライムにつかまれたままびくともしないんだけど。
「お、おい! なにをやってるんだサーベルタイガー! そいつらを食い殺せ!」
男の人が鞭をふるって地面を叩く。鋭い音が会場に響き渡った。
その音を聞いたサーベルタイガーが再び暴れ出した。
このままじゃ危ない。
僕はライムにつかまれたままのサーベルタイガーに近づくと……。
「あはははは! くすっぐたいよ!」
サーベルタイガーが大きな舌で僕の顔をなめてきた。
すっかり気を許してくれたみたいで、甘えるように僕に顔をこすりつけてくる。
顎の下をくすぐると、ゴロゴロとうれしそうな鳴き声を上げた。
「ば、ばかな! 半年もかけて調教したサーベルタイガーを、ほんの一瞬で飼い慣らしただと!? そんなこと、できるわけが……!」
ビーストテイマーの男の人が驚いている。
「だいたい、そいつはサーベルタイガーだぞ!? 少しでも引っかかれたり噛まれたりするだけで、人間なんか簡単に殺されちまう。怖くないのか!?」
「もちろん怖くなんかないよ。猫好きだし」
「サーベルタイガーを……猫扱い……」
なぜだか愕然としていた。
どうしたんだろう。
虎って猫科であってるよね?
サーベルタイガーをあやしていると、不意に背後からライムの視線を感じた。
そういえばあまり構い過ぎてるとまた浮気だとかいわれるかもしれない。
そう思って振り返ってみたけど、ライムは特に変わった態度でもなかった。
逆に僕が振り返ったのを見て首を傾げてくる。
「どうしたんですか?」
「いや、また浮気だとかいわれないかなって思って……」
「そんなこと言うわけないじゃないですか」
そういってニッコリと笑った。
「そいつオスですから」
あ、そうなんだ……。
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