カインの兄さんはそっちもいけるんですね
「ちなみにライムの姐さんから見て、カインの兄さんはどうなんですか?」
「カインさんはとーってもすごいんだよ! わたしのケガもすぐに治してくれたし、料理は美味しいし、それにドラゴンも倒しちゃうし!」
「いや、ドラゴンは倒したんじゃなくて、眠らせただけだから……」
僕は否定したんだけど、エッジは神妙な顔つきになった。
「ドラゴンって、あのエルの姐さんのことですよね……? 眠らせたってことは、気絶させたってことですか……? あの人を、一撃で……?」
なんだかめちゃくちゃ勘違いされてる気がする。
「なるほど、エルの姐さんはそれがきっかけで仲間になったんすね」
「あー、まあ、うん。そういう感じかなあ……」
だいたい合ってるから否定もできない。
実際あのときのことがきっかけでエルも一緒にくるようになったのは間違いないからね。
「ライムの姐さんもそうなんですか?」
「わたしは、カインさんに命を助けてもらったんです。だからこの命はカインさんのために使うって決めてるんです」
「別にそんなこと気にしなくていいのに」
「カインさんは気にしなくても、わたしは気にするんです」
「なるほど、それがきっかけでライムの姐さんは仲間になったんですね」
「そうだよ! でもそれだけじゃないんだ」
ライムが当時のことを思い出すように、うっとりとしながらつぶやく。
「ケガで倒れていたわたしに、カインさんが無理矢理体液を流し込んできたんです。そんなに強引にされるなんて初めてで、そんなにわたしと交尾がしたかったのかなって思ったら、すっかりカインさんのことが好きになってしまって。そのときに、もうこの人しかない! って思ったんだ」
ライムがニコニコしながらとんでもないことを話してくれた。
ああ、うん、そういえばそうだったね。
ライムとの出会いはそんな感じだったんだ。
もちろん色々違うというか、まだライムは人間の言葉に慣れていないところがあるので説明の仕方が色々間違ってるんだけど、エッジはニヤニヤしながら聞いていた。
「なるほど、カインの兄さんはそっちでもいけるんですね」
「たぶんものすごい誤解をしてると思うけど……」
「いやいや、隠さなくてもいいっすよ。これだけの美人なんですから手を出さない方がおかしいっすからね。いやあ、うらやましいですねえ」
やっぱり完全に誤解されていた。
ここで僕が否定しても、謙遜しないでくださいとか、隠さなくてもいいじゃないっすかとかしかいわれなくて、みんな信じてくれないんだよね……。
「なにかコツとかはあるんすか?」
「ええっ、なにもないよそんなの……」
そもそも、手を出したりとかそういうのは、してないし……。
「カインさんは、夜もとってもすごいんですよ!」
「えっ」
「ほう」
「いつもはとっても優しいのに、夜になるとすっごく激しくて、それでわたしはすっかり気持ちよくなっちゃって、朝まで動けないこともあるんだ」
「ライムはいったい何の話をしてるのかなあ!?」
やっぱりちゃんと言葉を教えないとダメなのかもしれない。
「普段は優しいのに、夜はゴウインになる……。やはりギャップってやつが大事なんですね」
エッジもうんうんとうなずきながらライムの話を聞いていた。
これ以上この話題を続けるのはよくない。
僕の経験がそういっていた。
「ところで! さっきからずっと気になってたんだけど、あれはなんなの?」
指さした方向には、壁に大きな檻が埋め込まれていた。
僕の拳くらいもありそうな太さの鉄格子がはまっている。
そう簡単には壊れそうにもないかなり頑丈な檻だ。
それこそ、小型のドラゴンくらいなら閉じこめておくことも出来そうだ。
どうしてあんなものが闘技場の控え室にあるんだろう。
エッジは特に驚いた様子もなくうなずいた。
「ああ、あれっすか。そういえばこの大会を見たことないなら知らないかもしれないですね。この大会は普通とは違うちょっと特殊なルールがありまして……」
そのとき、室内にアナウンスの声が響いた。
『まもなく第36試合を開始します。エントリー番号16番、52番の選手は第3試合会場までおこしください』
エントリー番号16番とは僕たちのことだ。
どうやら時間みたいだね。
檻のことは気になったけど、戻ってきてから聞けばいいかな。
「それじゃあ行こうか」
「はい!」
「お二人の実力を疑うわけではないですが、気をつけてくださいっす」
「カインさんはわたしがお守りするから大丈夫ですよ!」
心配してくれるエッジに、ライムが頼もしく答えた。




