場外乱闘は失格ですよ
ライムが大声で宣言したため、周囲の視線が僕らに集まってきた。
「なんだあいつら。ずいぶん威勢のいいことをいってるが」
「見たことないな……。どこか田舎からきた新人だろ。毎年いるんだよなああいう奴らが。そして一回戦でいなくなるんだ」
「俺はどこかで見たことある気がするんだが、どこだったかな……」
「そばにいるアイツは確か、前回のベスト4じゃないか? 今回は辞退して別の奴が代わりに出るって聞いたが……」
なんだかずいぶんと注目を集めてしまっている。
エッジが苦笑していた。
「試合外での戦闘は失格になるんで、気を付けてくださいよ。血の気の多い奴が集まってるんで、毎年それで何組も失格になってますし」
ライムなら平気、とはさっきの言葉を聞いたあとだとさすがに言いにくいなあ。
ちなみにそのライムは、まだ周囲をきょろきょろと見渡していた。
「どうかしたの?」
「いえ、どんな敵がいるのかと思いまして。まあ見たところ強そうなのはあまりいませんので、心配はないと思いますけど」
ライムと互角に戦える人間なんてそうそういないとは思うんだけど……。
「あまりいないってことは、少しはいるってこと?」
「はっきりとは感じられませんが、いくつか少し怖い気配を感じます」
「ライムでも怖いっていうのは、かなりすごいね。いったいどんな人なんだろう……」
思わず僕も周囲を見渡してしまう。
僕には見ただけで強さがわかるなんて特技はないから、みんな強そうに見えるんだけど。
身軽な服装に二本の剣を差した人、全身を重鎧で包んだ人、杖を持った魔導師風の人など、様々なタイプの人がいる。
さすがに本戦まで残ってきただけあって、みんな強そうだ。
誰が一番とかを見分けるなんて僕には出来そうにない。
「ちなみにライムの姐さんから見てオレはどうなんっすか」
「うーん、まあまあかな。この中では怖い方だと思うよ」
ライムは聞かれたから答えただけだ。
別に悪気はなかったはず。
それが伝わったのか、エッジも苦笑していた。
「まあまあですか……。これでも一応腕には自信がある方だと思うんですけどね。まあ、ボスやツルギさんがいても、姐さん一人相手に勝てなかったって聞いてるんで、オレなんかじゃ歯が立たなくて当たり前なんですが……」
「ライムからみてまあまあってだけでもすごいことだと思うよ」
これは本当にそう思う。
普通の人間じゃそれこそ本当に歯が立たないはずだし。
「オレからしたらカインの兄さんもよっぽど恐ろしいですけどね」
「ええっ? ライムはともかく、僕なんて全然大したことないけど」
「ライムの姐さんが強いのは見ればわかるんすよ。これでも一応鍛えてるほうなんで、目の前に立つだけで正直かなりビビってます。こりゃあ絶対勝てないって感覚でわかるんすよ。でもカインの兄さんは逆に、まったくなにも感じない。本当にただの普通の人なんです」
「それはそうだと思うよ。実際に僕は本当に普通に人だし」
いやむしろレベル1のスキル0だから、普通以下なんだけど……。
「そんな普通の人が、ライムの姐さんみたいな人を従えてるなんて、あり得ないでしょう。しかも昨日一緒にいたエルの姐さんも、相当にやばい人だった。正体はドラゴンだなんて冗談言ってましたけど、本当だといわれたら信じてましたよ」
うん、エルは実際にドラゴンだから、その勘は正しいんだけど。
「なのに、カインの兄さんからは何一つ感じない。本当に、力の片鱗さえ感じ取れないんです。それが逆に恐ろしいんですよ。いったいどんなすごい力を隠してるのか……」
「よくわかりませんけど、やっぱりカインさんはすごいってことですね!」
相変わらず、僕がほめられるとライムはうれしそうになる。
といっても僕自身は本当になにもできない。みんなに助けてもらってるだけなんだけどなあ。




