火食い鳥の羽
ライムに伝言してもらうアイディアはよかったんだけど、それだと話が進まないので、結局フィアと向かい合って話すことにした。
顔も赤くて恥ずかしそうにしていたけど、それでもだいぶマシになってきた。
「い、一時的にですが、ようやく魔法の効果が弱くなってきましたので、これでしばらくは話ができるのではないかと思います……」
「それならいいんだけど、無理はしないでね」
「うっ……! そ、そのような優しい言葉をかけていただき、とてもうれしいですわ……」
顔を赤くしながらもなんとかそんなことをいう。
さっきまでなら「ああっ、そんな優しい言葉をかけられたらうれしくて死んでしまいますわ!」くらいはいっていたので、確かにだいぶよくなったみたいだ。
……なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきたけど……。
「それにしても、体調が良くなってきたようでよかったよ」
「ええ、万全ではありませんが、貴方が戻ってきてしまった以上、計画を進めなければなりませんので……」
計画? カイゼルさんのための薬の話かな?
「とりあえず、最後の素材は「火食い鳥の羽」だったよね」
火食い鳥。
それは伝説の鳥ともいわれている。
火山の中に住み、マグマに飛び込むことで死と再生を果たすため、不死の鳥ともいわれているんだ。
その羽には強い生命力が宿っていて、薬を作るには必要不可欠な素材でもあるんだ。
「そういえば、火山の中に飛び込む変な鳥を見たことがあったっけ」
エルが思い出したようにつぶやく。
「なんでそんなことしてるんだろうって思ってたけど、そういう鳥がいたんだね」
「貴女は火食い鳥を見たことがあるのですか?」
「昔一度だけね」
「かなり珍しい上に、転生の周期もわかっていませんので、目にするだけでもかなりの幸運が必要なんですのよ」
「そうだったんだ。じゃあボクはかなり運が良かったんだね」
エルがのほほんとして答える。
実際フィアの言う通り、火食い鳥を見つけるのは困難を極める。
数自体がとても少ないし、マグマに飛び込んでから復活するまでも、数年から数百年といわれてて幅がある。
運が悪いと、もしかしたら今の時代にはいないかもしれないんだ。
だから火食い鳥を見つけるのは難しい。
でも、生命の水と違って存在しているのは間違いないし、過去に見つかった羽は今でも流通している。
だから入手難度自体はそこまで高いわけじゃないんだ。
なによりも、今は手に入れるのがかなり簡単な事情がある。
それは、今開催されている武闘大会の景品になっているからなんだ。
正確には、優勝トロフィーの飾りに使われているんだって。
だから僕が帰ってきた後、武闘大会の優勝者に譲ってもらうつもりだったんだ。
でも僕が早く帰ってきたことで少しだけ事情が変わった。
実は、武闘大会はまだ終わっていないみたいなんだ。
なので優勝者も決まっていない。
火食い鳥の羽は、予想ではかなりの高額になるはずだった。
カイゼルさんに協力して買うつもりだったけど、もし僕らが出場して優勝することができたのなら、もっと簡単に手に入れられることになる。
まあ、さすがに簡単に優勝できるなんて思ってるわけじゃないけどね。
「どうなるかはわからないけど、一度大会を見に行ってみようか」
出場するにしろ、しないにしろ、様子を見に行くのは悪いことじゃないはず。
それに実は、武闘大会を見たことがなかったんだよね。
だからちょっとだけ楽しみだったりするんだ。
「じゃあこれからカインさんとお出かけですね」
「なんか人間がいっぱい集まって戦ったりしてたところだよね。一度いったんだけどなにをしてるのかよくわからなかったんだ」
ライムとエルも楽しみにしてるみたいだった。
「それじゃあ僕たちは大会の様子を見に行ってくるね」
「え、ええ。健闘を祈っておりますわ。ワタクシはそのあいだに準備を進めておきますので」
フィアがそういって送り出してくれた。
◇
アイツが予想よりもかなり早く帰ってきてしまった。
30日もあればかなり余裕があるから、ゆっくりと時間をかけて準備するはずだったのに。
おかげでほとんど準備が整っていないままで解呪せざるを得なかった。
そのせいでチャームの効果も完全には消えていない。
万全からはほど遠い状態だ。
「まさか、こちらを油断させるためにわざと嘘の情報を……?」
一瞬そう思ったけど、なんだか現実感がなかった。
アイツはいつものんびりとしてて、いかにも気のよさそうなふぬけた顔で、ワタクシのことを疑いもしないお人好しだ。
そのせいで、一緒にいるとなんだかこっちまで気が抜ける気がしてしまう。
そんなこと、これまで一度もなかったのに……。
「……ッ!!」
心臓が握り潰されたように痛みだし、その場で床にうずくまった。
いや、実際に握り潰されそうになっているのだ。
アイツを早く手に入れろと主が急かしているんだろう。
時間がなかった。
使い魔程度では勝ち目がないことは前回の件でわかっている。
万全の状態からはほど遠いが、自分で動くしかない。
前回は失敗してしまったが、次こそは成功させる。
チャームによる魅了が効かないのなら、次はもっと直接的な方法でいくしかないだろう。
方法を選ぶ余裕はなかった。
失敗すれば自分の命はないのだから。
手段を選んでなんかいられない。
そのはずなのに……。
お人好しな笑みが頭に張り付いて離れない。
一緒に行動してわかったことがある。
アイツはどこまでも善良で、人から恨まれるような人間ではない。
それがどうして、よりにもよって主に目を付けられているのか……。
わからなかったが、考えても仕方のないことだ。
記憶の中から善良な笑みを消し去り、意識を切り替える。
やるしかない。
なんだかんだといったところで、自分の命より大切なものなんて存在しないのだから。
だから、たとえその結果アイツがどうなるとしても、自分には関係ないことなんだ。
もし面白かったと思っていただけましたら、下の評価欄から評価していただけると嬉しいです!
また感想、レビューなども送れますので、一言でもいいのでもらえると大変励みになります♪




