僕からもお願いしていいかな◇
「カインさん?」
「ごめん。ちゃんといえばよかったね。テストはもちろん合格だよ。
でも、もしライムが特別な力を持たない普通の女の子だったとしても、きっと結果は同じだったと思う。それくらい、ライムと一緒にいることが僕にとっても当たり前になっていたんだ」
「えっと、つまり……」
「ライムといると僕も楽しいんだ。一緒にクエストに行ったり、料理を美味しそうに食べてくれたり、そういうのがこんなに楽しいなんて知らなかった。すぐに交尾をしたいとか言い出すのはちょっと困るけど……」
今まで誰かと暮らすということが僕にはぴんとこなかったけど。
でも、今日のようなことがこれからも毎日続くんだって考えると、それはとても悪くない気がした。
スキルもない僕なんて誰とも釣り合わない、って卑屈になってたけど、人間の生活に慣れていないライムとなら相性はいいのかもしれない。
家族ができるっていうのは、もしかしたらこういうことなのかもしれないね。
家族というか、ライムは大きな娘って感じだけど。
「だから、僕からもお願いしていいかな。ライムさえよければ、これからも僕と一緒にいて欲しい」
目の前の女の子がびっくりしたように目を見開く。
やがてゆっくりと、笑顔が戻ってきた。
「はい! もちろんです!」
ライムが腕の中で笑みをこぼし、涙を流した。
「あれ? これは、なんでしょう……? 汚れが入ったわけでもないのに、どうして涙が……」
その理由はきっと人間なら誰でもわかる。
それをいうのは少し恥ずかしかったけど、ライムのために僕は教えてあげることにした。
「……人間はね。悲しいときや、嬉しいときにも涙を流すことがあるんだよ」
「じゃあ、うれしいからです。心も体も温かくて、涙が止まらないんです」
「そっか」
「人間の気持ちが少しだけ分かった気がします。交尾をしたから夫婦ではないんですね。この気持ちがあるから夫婦になるんですね」
「そうかもしれないね……。ただ、僕たちは夫婦ではないけどね」
「そうなんですか?」
ライムがきょとんとしながら返す。それからごく自然な流れで質問してきた。
「じゃあどうしたらカインさんと夫婦になれるんですか?」
「ええっと、それは……」
ライムは人間社会についてよく知らないからかもしれないけど、こうストレートにいわれると答えに困ってしまう。
ライムのことが嫌いってわけじゃないし、むしろ好きなんだと思うけど、いきなり夫婦とかいわれると、なんていうか、こう……。
「とにかく、会ったばかりの人がいきなり夫婦になるのはあまりないんじゃないかな……。そういうのはもっと時間をかけて進展していくものだと思うし……」
中には出会ってすぐに結婚する人たちもいるんだろうけど……。
「ところでカインさん、あの……」
「どうしたの?」
「ずっと抱きしめられたままだと、その……」
「あっ、ごめん! つい……」
慌てて手を離す。
ライムは少し赤くなった顔をうつむかせる。
「いえ、カインさんに抱きしめられるのはとてもうれしいのでかまわないのですが……、カインさんの体温が伝わってくると、なんだか変な気分になってしまいまして……」
照れ照れとしながら答えるライム。
相変わらずストレートすぎて答えに困る。
「そういうことは、その……また今度ね」
今度なんて来るのかわからないけど、言葉が見つからなくてそう答えてしまう。
ライムが顔をぱあっと輝かせた。
「はい、楽しみにしてますね!!」
本当に意味わかっていってるのかな……。
僕は熱くなった顔で視線を逸らすことしかできなかった。




