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夜の空

 マナたちにお礼を言って、僕らはエルフの森を後にした。

 来たときと同じように、エルにゲートを開いてもらう。


 朝食を食べたばっかりだったけど、外に出るとそこは真っ暗だった。


「あれっ、もう夜なんですか?」


 ライムが空を見上げながら首を傾げている。

 エルフの森はまだ朝だったけど、こっちでは夜みたいだ。


「エルフの森と人間の世界では時間の流れがちがうからね」


 エルがそう説明してくれた。

 どうやら僕らがエルフの森に入ってから一日過ごすあいだに、元の世界では数時間しか経っていなかったみたいだ。


「しかたない、とりあえずここで野営をしようか」


 真っ暗な中を進むわけにはいかないしね。

 ただ、ライムもエルも複雑な表情をしていた。


「カインさんと寝られるのはうれしいですが、起きたばかりなのでまだ眠くないです」


 確かにそれもそうだよね。

 目が冴えちゃってるのはしょうがない。

 実際、僕だって全然眠くないし。


 とはいえ、この暗闇の中を歩くのはかなり危険だからできるわけがない。

 馬車も帰ってしまったから残されていないし。

 うーん。どうしようかな。


「エル、一応聞いてみるんだけど、エルフの森に行くゲートを使って、森の外までに行けたりとかしないかな」


 せめて視界が広い場所に出られれば、まだ夜の中でも歩けるんだけど。

 だけどエルは小さく首を振った。


「あれはワープしてるわけじゃなくて、エルフの森につながる穴をあけてるだけだから、森の外につながるゲートを開けることはできないんだ」


「やっぱりそうだよね。無理なこと聞いてごめんね」


「こっちこそ力になれなくてごめんね。でも、キミは森の外に出たいんだよね?」


「そうだね、夜の森を歩くのは暗いから危険だけど、せめて視界の広い場所に出られれば歩けると思うから」


「だったらボクが外まで連れていこうか」


 急にそんなことを言い出した。


「えっ、でもどうやって」


「元のドラゴンの姿に戻れば、すぐに飛んでいけると思うよ」


 そういえばエルはエルダードラゴンが人化の術を使って女の子の姿になっているんだっけ。

 たしかに元の姿に戻ればこの程度の森はすぐに越えられるかもしれない。


 ドラゴンの姿になると誰かに見つかる危険はあるかもしれないけど、このあたりは人もほとんどこないし、夜の闇に紛れればほとんど見えないはず。

 だから見つかる心配もきっと少ないはずだ。


「それじゃあ……」


 お願いしようかな、と言い掛けたとき、横からライムが割り込んできた。


「カインさんをお運びするのはわたしの役目ですよ! ドラゴンくらいわたしだってなれるんですから」


 そういうと、背中にドラゴンの翼を生やした。

 そういえば以前にも翼を生やしたライムに山の向こうまで連れて行ってもらったことがあったっけ。


「ええっと、僕としてはライムでもかまわないんだけど……」


「ボクはもちろんかまわないよ」


 エルもそういってくれた。


「そのかわり、ボクも一緒に連れていってくれないかな」


「ドラゴンはドラゴンなんですから自分で飛べるんじゃないんですか」


「でも人間の姿で空を飛んだことはないから、一度体験してみたいんだ」


「むむ……。わたしの体はカインさん専用なんですが……」


 その言い方はどうかなあ……。


「ライムが嫌でなければ、エルも連れて行ってあげて欲しいんだけど」


「まあ、嫌というわけではありませんので、カインさんがそういうのでしたら……」


 複雑な表情をしていたけど、なんだかんだでやってくれるみたいだった。

 片腕でエルを抱きかかえると、もう片方の腕で僕に抱きついてくる。


「えへへ、カインさんの匂いがいっぱいします」


 抱きつかれるだけでも恥ずかしいのに、僕のすぐそばで匂いをかがれると、なんだかいつも以上に恥ずかしさがこみあげてくるというか……。


「それじゃあ行きますね!」


 満面の笑みを浮かべたライムが、背中の翼をはためかせた。

 僕たちを抱えたまま、あっという間に森の頭上へと飛び出した。


 このあたりは森しかない。

 だから見下ろした景色は、一面が真っ暗な夜の闇に包まれていた。

 逆に、空には一面の星空が広がっていた。


「人間の目から見ると空ってこんなにキレイなんだね。それに風も気持ちいいし」


 エルも空の旅を気に入ったみたいだった。


 ライムが僕に顔をくっつけながらニコニコと笑みを浮かべる。


「片手だと落ちるかもしれないのでしっかり抱きついててくださいね」


 ライムの力はかなりあるけど、やっぱり片手だともし落っこちたりしたら危ないもんね。

 自分から抱きつくのは少し恥ずかしかったけど、そうもいってられない。


「う、うん。こうかな」


 ライムの体に両手を回して抱きつく。

 やわらかくて温かな感触に僕の心臓もドキドキと早鐘を打ちはじめる。


 うう……。仕方ないとはいえやっぱりちょっと恥ずかしい……。

 対するライムは顔をデレデレに溶かしていた。


「えへへ、カインさんからわたしに抱きついてくれるなんて……。これなら片手で飛ぶのも悪くないですね。これなら毎日でも空を飛びたいです」


「普段は空なんて飛んだら騒ぎになっちゃうからダメだけど……」


「うう……。じゃあこんなに幸せなのも今だけなんですね……」


 しょんぼりとした声でつぶやくと、急に僕の方にまじめな顔を向けてきた。


「じゃあ、落ちたら危ないのでもっと力一杯わたしに抱きついてください」


「けっこうしっかりと抱きついてると思うけど……」


「まだまだ、もっともーっとです♪」


 なんだかうれしそうだなあ。

 とはいえ落ちたら危ないのは確かだからね。

 ライムの言う通り、抱きつく腕にさらに力を込める。


「えへへへへへ~……」


 僕とエルを抱えたまま、ライムがいつまでも笑みをこぼしていた。

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