原初の生命体
「知らなかったの? まあ人間の世界には当時の記録なんて残ってないだろうからしょうがないのかもね。
ゴールデンスライムはずいぶん古くからいる……人間の言葉でいうのなら『神話の時代』からすでにいた種族。世界の始まりから存在する原初の生命体なのよ」
あまりにもあっさりといわれて、すぐには理解が追いつかなかった。
ライムがそんなにすごい種族だったなんて……。
でも考えてみれば、莫大な経験値を持つといわれたり、その体をオリハルコンに変えることができたりと、特殊な点はいくつもある。
超が付くほどの幻のモンスターでもあるしね。
それに一角獣だって神話の時代から生きるといわれるモンスターだ。
ゴールデンスライムもその仲間だといわれれば、それほど不思議はないのかもしれない。
ライムもうんうんとうなずいていた。
「難しいことはよくわかりませんけど、エルフどもの果物を食べて美味しいと感じるのは魔力が入っているからってことですね。だからたくさん食べても浮気ではないんです!」
そういって目を輝かせると、止まっていた手を再び動かしはじめた。
ライムの正体を聞いて驚いていた僕だったけど、本人はまったく気にしてないようだった。
まあ、ゴールデンスライムが昔からいたとしても、ライムがライムであることに変わりはないからね。
確かに驚きはしたけど、それだけと言われればそれだけだ。
だから僕も気にしないことにした。
「ご飯を食べただけで浮気にはならないから、好きなだけ食べても大丈夫だよ」
「でも、カインさんが作ってくれたご飯以外に心を奪われるわけにはいかないといいますか……」
「そういってくれるのはうれしいけど、美味しいものはどれも美味しいんだから、比べる必要なんてないんだよ」
「……カインさんは怒らないですか」
「もちろんだよ。僕だってこれは美味しいと思うし」
「……じゃあいっぱい食べても平気ですね!」
さっきから十分いっぱい食べてたと思うけど……。
苦笑しながらも、うれしそうに食べるライムをながめる。
ふと、そういえばマナ達はなにを食べてるんだろうと気になった。
聞いてみると、普段はほとんど水を飲むだけで、時々果実を少し口に含む程度でいいということだった。
「私たちは魔力が命の源だからね。ここなら魔力が濃いから食事はほとんど必要ないの。それに今はアナタのおかげで生命の水も手に入ったしね」
「そうそう、アナタのおかげでこっちも助かってるのよ!」
「虹の力を得た水は私たちにとってはごちそうなのよ。もう、ほんっと最高だったわ」
他のエルフたちも会話に混ざってきた。
みんなとてもうれしそうで表情も明るい。
それだけじゃなくて、なんだか体中から生命力にあふれているようにも感じられる。
それもあって、いつも以上に目を惹かれてしまった。
「……カインさん?」
ライムがめざとく僕の方を振り返る。
なんだか怒っているけど、これはそういうんじゃなくて、なんというか、あふれる生命力についつい目が向いてしまうというか……。
だから決して浮気とかそういうアレじゃないんだけど……。
「あら、長老も喜んでるみたいね」
エルフたちがそういって空を見上げる。
僕らを覆う大樹が青々とした葉を茂らせていた。
見た目が変わったわけじゃないのに、明らかに昨日とちがうのがはっきりとわかった。
なんていうか、葉の一枚一枚にまで生命がみなぎっているのが感じられる。
風もないのに大樹が揺れ、木の葉達が一斉にざわめき出した。
光の粒が雪のように僕らの頭上へと降り注ぐ。
「長老がこんなにはしゃぐなんて珍しいわね」
マナがもの珍しそうに光のシャワーを見上げている。
「長老もはしゃいだりするものなんですね……」
なんかイメージと違うというか。
マナがおかしそうな笑みを見せた。
「樹になっただけで中身は私たちとあまり変わらないからね。カインのことがよっぽど気に入ったのかしら。貴方を祝福しているみたいよ」
光はゆっくりと降りてくる。
手のひらで受け止めると、溶けるように僕の中に入って消えていった。
『エルフの加護を汝に』
長老の声が聞こえた。
なにか魔力のようなものが僕の中にあふれていくのを感じる。
どうやら僕を守ってくれるみたいだ。
「ありがとうございます」
樹に向かってお礼を述べると、もういちど大きくざわめいた気がした。
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