エルフの長老
マナが巨大な樹の幹に手を付いた。
「これよ。この大きな木が私たちエルフの長老なの」
「この樹が……?」
「へえ、エルフって樹になるんだ。知らなかったな」
エルも驚いたようだった。
確かに僕もそんな話は聞いたことがない。
「どうして長老さんはこんなに大きな樹になってるんですか? エルフって年を取るとみんなこうなるものなのかな」
たずねたけど、マナは軽く首を振るだけだった。
「詳しい理由は私たちも知らないわ。この森を作るために昔色々とあった影響みたいなんだけど、長老も当時のことは話してくれないのよね。少なくとも樹になったのは長老だけだから、エルフが成長するとみんなこうなる、ってわけじゃないみたいだけど」
エルフの森の成り立ち、かあ。
壮大すぎて僕には想像もつかないな。
「それにしても、長老っていうとやっぱり気難しい人なのかな。生命の水をもらうことを許してもらえなかったらどうしよう」
心配になったけど、マナは気楽に笑って流した。
「大丈夫、アナタたちみたいな面白い人間は大歓迎だから。もしダメっていわれても私たちが許可してあげるわ」
「ええっ、そんなことしていいの」
「いいのいいの。長老なんていっても一番長く生きてるだけで、ほとんどただの樹なんだから。気にすることないわ」
いいのかなあそんなので……。
長老っていうくらいなんだから、一番偉い人のはずなんだけど……。
とりあえずマナの案内で、エルフの長老だという大樹の真下へとやってきた。
幹と同じくらい太い根が絡まっていて、その中心は空洞になっている。
木の根で作られた部屋みたいになっていた。
「すごいね……こんな風になっているんだ……」
壮大な光景に思わずため息がもれる。
ライムもキョロキョロと周囲を見渡していた。
「森の中にいるようで、そうじゃない感じ……。なんだか不思議な感じです」
「ここは長老に一番近い場所だからね」
マナがそういって、空中に語りかける。
「長老、人間のお客さんが来たよ」
そういうと、マナの声が根の中に吸い込まれていくような、不思議な響き方をした。
そして大樹が根本からかすかにざわめく。
『人か。よく来た』
それは不思議な感覚だった。
声が響いたわけでもなく、頭の中に直接言葉が聞こえたわけでもなかった。
ライムのテレパシーとも違ってて、直接「意味」が伝わってきたとでもいうのかな。
語りかけられたと同時になにをいわれたのかがわかったんだ。
『そこの竜は次の管理者か。もうそんな時期か』
「ボクのことを知ってるの?」
『竜とエルフは古来より交わる定めにある』
その言葉に僕は驚いた。
「エルフとエルダードラゴンは昔から交流があったってことですか?」
その話は聞いたことがなかった。
竜が勇者を助ける話はあっても、エルフが直接関わってくる話は聞いたことがない。
神話の中にだってエルフは名前しか出てこないくらいだ。
『我らと竜は世界の定めより結ばれしもの。人の営みに関わることはない』
詳しいことはわからないけど、人間の歴史に出てこないのは、元から僕らに関わることはなかったからって意味かな。
エルフの長老が木になってることや、この森が作られることになった理由にも関わってくるのかもしれないね。
「ところでこの人間たちが生命の水をほしいんだって。あげてもいいかな」
マナがたずねると、大樹がかすかにざわめいた。
『許可しよう』
ずいぶんあっさりだった。
断られると思ってたわけじゃないけど、こんなに簡単だとなんだか拍子抜けしてしまう。
「隠してるわけでもないしね。ただ手に入れるにはちょっと条件があるだけで」
「そういえば僕に協力してもらいたいことがあるんだっけ。それってなんなのかな。僕にできることならいいけど」
「大丈夫。簡単なことよ。ちょっとアナタの魔力をわけでもらいたいだけだから」
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