美味しいご飯より幸せなものなんてないよね
町に戻ってくるとちょっとした騒ぎになっていた。
さっきのドラゴンが町からでも見えていたらしい。
まあ、あれだけの巨体と、咆哮だったし、町まで届いていても不思議じゃない。
「お前たち、無事だったか!?」
門番のおじさんが迎え入れてくれる。
ライムが勢いよく手を挙げて答えた。
「はーい! 大丈夫です! カインさんがドラゴンを眠らせてくれたので、わたしは無事でした!」
「眠らせた? ドラゴンを?」
おじさんが驚いた表情を浮かべる。
「特殊な調合をすればドラゴンにも効くようになるんですよ」
「わたしがドラゴンを倒してトドメを刺そうとしたんですけど、そうしたらカインさんがそれはかわいそうだからといって、眠らせてくれたんです」
「え? ライムちゃんがドラゴンを倒した? ど、どうやって?」
「こう……ぐーでどーんと」
パンチをする真似をしてみせる。
門番のおじさんは絶句したまま立ち呆けていた。
そりゃそうなるよね。パンチでドラゴンを倒すとか目の前で見た僕だって信じられなかったんだから。
「まあ、騎士団の人たちも手伝ってくれましたし」
一応フォローしてみたけど、おじさんは二の句が継げないまま僕とライムを交互に見比べている。
これ以上疑われる前に、さっさと退散した方がよさそうかな。
☆☆☆
セーラに採取したクエストの薬草を渡した後、家に戻ってきた。
たった半日程度のクエストだったんだけど、なんだかずいぶんと疲れてしまった。
騎士団の人に会ったり、ドラゴンに襲われたり、色々あったからなあ。
日もすっかり暮れていたため、まずはご飯を作ることにする。
セーラからの報酬を使ってお米を買い、そこにクエストの途中で採ってきた山菜や茸を入れて一緒に炊くだけの簡単な料理だ。
見た目は質素だけど、採ってきたばかりだから鮮度だけは抜群。
机の上に並べると、ライムが目を輝かせた。
「これ、食べてもいいんですか!?」
「もちろん。ライムのために作ったんだから」
苦笑しながら答える。
ライムは「わたしのため……」となにやら感慨深そうにつぶやく。
それから並べられた料理を食べはじめた。とたんに表情がトロトロと崩れる。
「はわぁ……やっぱりカインさんの作る料理は美味しいですぅ……」
「そんなに大したものじゃないと思うけど」
「そんなことないです! 草とかもいっぱい食べてきましたけど、こんなにおいしい草は初めてです!」
ライムが力説する。
さすがに生の草と比べれば何でも美味しいと思うけど。
ライムのちょっと溶けた幸せそうな表情を見ながら、僕も食べることにする。
うん。なかなかうまくできてるみたいでよかった。
「おかわりはいくらでもあるから、どんどん食べていいよ」
そのために僕一人じゃ食べきれないほどの量を採ってきてあるし。
「ど、どんどん食べていいんですか!? はわわぁ……こんな幸せなことがあっていいんでしょうか……」
ずいぶん大げさだなあ。
でも、自分の感情を素直に表現できるのはライムのいいところだ。
それに二人で食べる美味しいご飯が幸せなのは、僕も同じ気持ちだしね。