これはまさかあのお方の……
しばらく竜鱗の鍋を堪能したダミアンさんは、僕たちを工房の客室に案内してくれた。
席に着くなり、顔がテーブルに当たりそうになるくらい深く頭を下げる。
「先ほどは追い出すような真似をしてすまなかった。俺がここの工房をまとめてるダミアンだ」
「そんな、頭を上げてください」
あわててそういったんだけど、ダミアンさんは頭を下げたまま首を振った。
「あんたのことを見た目で侮っちまった。鍛冶師にとって大切なのは、槌を振る腕よりも、物を見る目だとあの人からもいわれていたのに」
「僕はそんなに大したことはないので、ダミアンさんの目は間違ってないと思いますけど……」
実際あの鍋はスミスさんが作ったものであって、僕はなにもしていないし。
ただのレベル1でスキルもない冒険者だ。
「いや、あの鍋には鍛冶師の技術のすべてが詰まっていた。どうでもいい人間相手にあんな仕事はしない。依頼人のことを深く尊敬し、最高の作品を届けたいと思う心がなければ、あそこまで妥協のない仕事はできないだろう」
ダミアンさんはようやく顔を上げたけど、僕をまっすぐに見る瞳には真摯な光があった。
「あんたは、あれほどの職人にそこまで思われる人物ってことだ。それを見抜けなかったのは俺の力不足だ」
「よくわかりませんけど、カインさんはやっぱりすごいってことですね!」
ライムがニコニコとうなずいている。
いや、すごいのは僕じゃなくてスミスさんだと思うけど。
なにしろ、王都で一番の腕を持つというダミアンさんにそこまでいわせるくらいなんだから。
「ところで、あの鍋を作ったのは誰なんだ」
「スミスさんです」
僕が答えると、ダミアンさんが腕を組んで考え込む。
「そういえばここを紹介したってのもそのスミスといっていたか。しかしそんな名前の知り合いなんていないが……」
「そういえば王都にいたことは違う名前だっていってました。昔の名前までは教えてくれませんでしたけど」
「違う名前……? しかも、ここを紹介した……。ということは、もしかしてジェンドさんか!?」
ダミアンさんが驚いたように立ち上がる。
「あの人は今どこにいるんだ!?」
「ええっと、すいません、昔の名前は聞いていないので……。それに事情があって、今いる場所を教えるわけにはいかないんです」
スミスさんは、わけあって王都から僕たちの町に移動してきたっていってた。
名前も変えているくらいだ。
きっと他の人にも知られたくない事情があるはず。
なのに、僕が勝手にスミスさんの場所を教えるわけにはいかないよね。
勢いよく立ち上がったダミアンさんも、落ち着きを取り戻したように座り直した。
「そうか、そうだな……。あの人は王都に嫌気がさして出て行ったのだからな……」
「お力になれずすみません」
「いや、あんたが謝ることじゃない。あの人が元気にやってることはあの鍋を見ればわかるからな。
それに、ジェンドさんは当時から百年に一度の天才なんていわれていたが、王都を離れて衰えるどころか、さらに腕が上がってるみたいだしな。俺も怠けてられねえ。あの人に追いつけるようさらに修行をしないと」
そういうダミアンさんの笑顔は、スミスさんのものによく似た快活な笑みだった。
もしかしたらダミアンさんは、スミスさんのお弟子さんなのかもしれないね。
「そういや驚きの連続ですっかり忘れてたが、あんたがうちにきた理由を聞いてなかったな」
「実は作ってもらいたいものがあるのですが……」
「おお、なんでもいってくれ。ジェンドさんの知り合いなら最優先で引き受けてやるよ!」
力強くそういってくれた。
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