竜鱗の料理鍋
「この素晴らしい作品をどこで手に入れたんだ!?」
ダミアンさんが料理用の鍋を食い入るように見つめている。
あれは確か、スミスさんに竜の鱗を使って作ってもらったやつだよね。
わざわざ鍋を持ち歩くのもどうかなと思ったんだけど、アルフォードさんの家に置きっぱなしにするのも悪いので、こうして持ち歩いてたんだ。
スミスさんの技術のおかげか、そんなに重くないしね。
アルフォードさんだったら、家に荷物を置くくらい気にしなくてもいいというだろうけど、だからといってその好意にそのまま甘えるってわけにもいかないからね。
それはともかく、ダミアンさんは料理用の鍋に夢中になっていた。
「すまないが、これを見せてもらってもいいか!?」
「もちろんいいですよ」
鍋を差し出すと、砂の器にふれるような神妙な手つきでそれを受け取った。
「おお……。この軽さ……なんという素晴らしい仕事なんだ……」
一通り眺めたあと、鍋の湾曲した部分をゆっくりとなでる。
「はあぁ……。見ろよこの鍋底の曲面を。こんなに美しいものは見たことがない……。滑らかで、そして艶めかしい……。いっさいの歪みがなく、厚さも完全に均一だ。なによりもすごいのが、ただの鍋にここまで妥協のない仕事をこなしたということだ。そんなこと普通はできない」
そういえばスミスさんは、竜鱗の鍋なんて世界初じゃねえか、と喜んでいたっけ。
それですごい張り切って作ったのかもしれないね。
「それにしても、いくら凄腕の職人でもただの鉄でこんな作品が作れるはずがない。この材料はいったい何なんだ?」
「ええっと、竜の鱗を使って作ってもらったんです」
「竜の鱗を使って鍋を作った!?」
ダミアンさんが驚愕の声を上げる。
「なんという素材の無駄使い……。しかしだからこそ、これだけのクオリティの物が作れるのか……」
鍋を持ち上げて耳に当てると、鍋底を裏から叩いた。
コンコンと反響する音が小さく響く。
ダミアンさんがうっとりと目を閉じた。
「おお……。なんという澄んだ音……。作り手の妥協のない真摯な姿勢が伝わってくる……。まるで心が洗われるかのようだ……。これはもはや鍋ではない……。鍋の形をした芸術だ……」
さっきまでの敵対的な雰囲気が消えて、すっかり感じ入っている。
さらには、そのまま鍋に向けて頬ずりをはじめた。
「はわわ……。まるで絹に触れているかのような触り心地……。一生こうして生きていたい……。鍋に調理される食材になりたい……」
食材になるのはさすがにやめておいた方がいいんじゃないかなあ……。
そんな感じで興奮するダミアンさんを、ライムとエルがそろって見つめていた。
「なんか気持ち悪いです」
「やっぱり人間って面白いなあ」
ライムが嫌悪感を露わにした表情を浮かべ、エルが大声で笑っている。
まあ僕もダミアンさんの行動にはちょっと驚いてるけど、スミスさんも鍛冶のこととなるとけっこう我を忘れるほうだからね。
だからそこまで驚いたわけでもなかった。
まあ鍛冶師の人がみんなこんなに変わってる訳じゃないと思いたいけど。
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