伝説の鍛冶師を求めて
エルとライムが離れてくれないので歩きにくかったけど、どうにか目的の場所にやってくることができた。
このあたりは武具の工房が多いせいか大きな建物が多いんだけど、スミスさんに紹介してもらったところはその中でもひときわ大きな建物だった。
扉のない入り口からはものすごい熱気があふれていて、絶え間なく金属を打つ音が響いてくる。
入り口に立つだけでも圧倒されそうだった。
「こんにちわー!」
「わー!」
音に負けないよう大声で呼びかけると、ライムも真似をするように大きな声を上げた。
「あはははは! なんだか楽しいです!」
そういえば初めてライムと一緒にスミスさんの工房にお邪魔したときも、こんな感じだったっけ。
大声を出すのってなんでだか楽しくなるんだよね。
しばらくして若い男性が店の奥から姿を現した。
「なんだあんたら」
仲良くなる事を放棄したような、ぶっきらぼうな声が響く。
現れたのは、スミスさんのような大柄ではなく、背丈は僕より少し高いくらいの人だった。
腕の太さも鍛冶をする人の中では細いほうに見える。
それでも全身鍛え上げられているのが一目でわかった。
かなり若く見えるけど、きっとこの人がここの主人だろう。
「こんにちは。もしかしてダミアンさんですか? ここなら王都で一番腕がいいとスミスさんに紹介されてきたんですけど……」
「スミスだあ? 知らねえなそんなやつは」
言葉の途中で一蹴されてしまった。
そういえばスミスさんは、王都では違う名前で活動してたっていってたっけ。
王都で有名になりすぎたため、いちから再スタートするために新しい名前としてスミスと名乗ってるっていってた気がする。
「確かに王都じゃうちが一番腕がいいだろうな。おかげであんたみたいな飛び込みも多いんだ。適当なやつに紹介されたんだとか嘘をつくやつもな」
ダミアンさんが冷ややかな目を僕に向ける。
どうやら完全に疑われているようだ。
「だいたいそんな女連れでくるなんてどういうつもりだ。ここがどういう場所かわかってんのか。ずいぶん美人を連れてきたみたいだが、まさか女で籠絡すればなんとかなるだろうとでも思ったのか。ずいぶんなめたことを考えてくれたもんだな」
「むっ、なんだかわかりませんけど、わたしのことを悪くいうのはともかく、カインさんのことを悪くいうのは許しませんよ」
「なんだかボクたちに対してずいぶん悪い感情を抱いてるみたいだけど、なにか問題でもあったのかな?」
ライムとエルが一歩前に出る。
ちょうど僕を守るような形になった。
ダミアンさんの目がすっと細くなる。
「……それはなんのつもりだ。悪いが女だからって手加減なんかしねえぞ。帰れっていってんだろうが!」
両手を突き出してライムとエルを押しとばそうとする。
けど、二人はまるでビクともせず、逆にダミアンさんのほうが押し戻されてしまった。
「……なっ!?」
押し戻されてバランスを崩しながら、びっくりしたような声を上げる。
すぐに体勢を戻したけど、その顔は驚きの表情を浮かべたままだった。
「……この俺を押し戻すとは、見かけに寄らず鍛えてるみたいだな」
「よくわかりませんが、こいつ敵ですか?」
ライムが僕を振り返ってたずねる。
「敵なら殺した方がいいですか? それとも痛めつけていうことを聞かせますか?」
「ボク知ってるよ。人間はすぐには殺さないんだよね。そういうときは半殺しにするって聞いたことあるけど」
「はんごろし? どういう意味ですか?」
「実はボクもよくは知らないけど、半分にすればいいんじゃないかな」
「なるほど。真っ二つにすればいいってことですね」
相変わらず物騒なことを平然と口にしている。
元はモンスターである二人は弱肉強食の世界で生きてきただけあって、人間の常識はまだ難しいところがあるみたいなんだよね。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。いきなり来ちゃった僕も悪いし。今日のところは一度帰ることにするよ」
いきなり訪ねてきたら疑われるのも仕方ないと思う。
ミスリル銀が届くにも三日くらいはかかるっていってたし、無理に今日依頼をする必要もないはず。
ここは一度出直して、また明日改めて頼みにこよう。
熱気のこもっていた工房から出ると、外の空気が新鮮に感じられた。
やっぱり中は暑いからね。
思わず深呼吸していると、急に背後から声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
ダミアンさんが驚いたように駆けつけてくる。
いったいどうしたんだろうと思ったら、僕の荷物に……正確には、荷物の中にあった鍋を食い入るように見つめていた。
「この素晴らしい作品をどこで手に入れたんだ!?」
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