運動のあとのご飯は美味しい
稽古を終えたあとは、アルフォードさんと昼食を食べにいくことになった。
「訓練場の近くに、私たちが訓練の終わりによく利用するお店があるんだ」
「騎士団の人がよく利用されるお店ですか。それは楽しみですね」
「そういえばちょうどお腹が空いてきたところでした!」
「人間のご飯は美味しいからボクも楽しみだな」
ライムが元気に声を上げ、エルもうれしそうにそういった。
ちなみにライムとエルの訓練、というか、なんだかよくわからない力比べの結果は引き分けだった。
まあお互いケガをしないように、両手を組み合っての押し合いっこになっていたからかもしれないけど。
勝負は付かなかったけど、お互い力を出し切ったためか二人は満足したみたいだった。
そのかいもあってか、ちょっとだけ仲良くなったようにも見えた。
とりあえず二人の力はほとんど同じみたいだね。
もっとも、その力比べのおかげで訓練場はだいぶ壊れたんだけど。
両手をあわせて押し合っていただけなのになぜか地面はひび割れ、壁にまで亀裂が走っていた。
これでは復旧も大変なのではと心配になったんだけど、訓練場は最初から壊れることを想定して再生魔法がかけられているから平気だとアルフォードさんが笑いながら教えてくれた。
だから多少半壊したくらいなら一日で元に戻るらしいんだ。
そういえば訓練用の装備にも再生魔法がかけられているんだっけ。
それなら訓練場が使えなくなる心配もなさそうだから安心だね。
アルフォードさんに案内されたのは、訓練場を出てすぐ目の前にあるお店だった。
思っていたよりも結構大きい。
訓練場が大きいから、その利用者が集まるお店も大きくしないと入りきらないのかもしれないね。
とはいえ、今日はアルフォードさんが訓練場を昼まで貸し切りにしていた。
だからさすがに誰もいないかもしれない。
そう思ったんだけど、中に入るとけっこう席が埋まっていた。
アルフォードさんが姿を見せると店内が急にざわめきだす。
お客さんの一人が勢い込んでたずねてきた。
「アルフォード様、さっきまで訓練場を貸し切っていたというのは本当ですか!?」
「ああ、その通りだが」
そう答えると、ざわめきがさらに広がった。
「ということは、先ほどのもの凄い音と衝撃もやはりアルフォード様が……!?」
「さすがはドラゴンスレイヤーの称号を持つだけはありますね!」
「あ、あー。まあ、そうだな。私というか、私ではないというか……」
そのもの凄い音とか衝撃とかはたぶんライムたちのものだよね。
アルフォードさんは答えにくそうにしていたけど、さすがに僕らのことは隠してくれた。
そのせいで、アルフォードさん一人で起こしたものと思われてしまったみたいだ。
「おい聞いたか、訓練場の被害が大きいらしくて、今日は一日使用できないらしいぞ」
「訓練場の壁は城壁と変わらないはずだろ。それを再生不可能なまでに破壊したってことか……?」
「一人でドラゴンを倒すだけじゃなく、これからは一人で城を攻め落とせますね!」
なんだかずいぶん盛り上がっている。
アルフォードさんは苦笑とも苦々しい表情ともつかない微妙な顔つきをしていた。
騒ぎも一段落したところでご飯を食べることにした。
「軽い運動のあとのご飯は特別に美味しいです!」
山盛りになったご飯をライムが美味しそうにばくばくと食べている。
周りの騎士の人たちも、驚いたような視線をチラチラと向けてきていた。
騎士団の人もよく利用する食堂ということで安くて量も多いんだけど、やっぱりライムはその中でも注目されてしまうようだ。
「ライム君にとってはあれで軽い運動なのか……」
アルフォードさんが苦笑している。
訓練が終わったあとアルフォードさんはしばらく立てないくらい疲れ果てていたからね。
「ボクも久しぶりに運動できてよかったな。本当はもうちょっと体を動かしたかったけど、あれ以上力を出したら人間の建物が壊れちゃってたと思うし」
エルもそんなことをいっていた。
人間が好きだから人間の姿になっているけど、やっぱり元の姿の方が楽なのかな。
エルの実力を引き出せなかったアルフォードさんは気を悪くした様子もなく、「やはり私はまだまだだな」と気を引き締めたみたいだった。
もっとも、エルやライムを満足させられたらそれはもう人間じゃないと僕は思うんだ。
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