ドラゴンたちの楽園
ドラゴンの話を聞いているあいだにずいぶん時間が経ってしまった。
どれもこれも聞いたことのない話ばかりで、僕は興奮がさめやらない。
今すぐにでも僕が付けているモンスター図鑑に書き記したいくらいだ。
そんな僕の横で、ライムがぷくっと頬を膨らませた。
「むうう……。なんだかとっても気持ちが落ち着かないです」
「どうしたの?」
「全然なんでもないです!」
そういうけど、どうみたって不満顔だ。
ふくれっ面のまま真横を向いて目も合わせてくれないし。
うーん、なにを怒っているんだろう。
「ここにいると人間に迷惑をかけるみたいだし、ボクはもう行くね」
二本足で立ち上がると、森の木々を超えて立ち上がる。
ライムに攻撃されたおなかの辺りが赤くなっているのが見えた。鱗も一部がはがれている。
ドラゴンがしっぽを回して傷の辺りをなでると、赤くなっていた部分はあっという間に再生して元通りになってしまった。
どうやらほとんどダメージになってなかったみたいだ。
やっぱり伝説のエルダードラゴンなだけあってすごいなあ。
新しい鱗も再生して、古くなった鱗が1枚はがれて地面に落ちる。
「それはキミたちにあげるよ。ボクたちの鱗は人間にとっても貴重なものなんでしょ」
「本当にいいの? 貴重なんてものじゃないよ。ありがとう」
竜の鱗は、オリハルコンに次ぐともいわれる硬度を持っている。
ものによってはそれ一枚で家が建つくらいの高値で取り引きされるんだ。
子供とはいえ、エルダードラゴンの鱗となったら、家が二、三軒は建っちゃうかも。
「私もそれ欲しいです」
「ライムも?」
「はい」
うなずいて、ちょっと溶けたのか、じゅるりと口から垂れたよだれをぬぐった。
「そういえばドラゴンって食べたことないなと思いまして……」
「ええっ。ボクを食べるのはやめてよ。鱗ならいくらでもあげるから」
尻尾がもう一度おなかの辺りをなでると、鱗が一枚地面にはがれ落ちてきた。
さっそくライムがそれを拾い上げると、自分の体に押し当てる。そのまま体内に取り込んでしまった。
「なるほど、これはなかなか悪くないですね……」
満足そうな表情になる。よくわからないけどお気に召したみたいだ。
「それじゃボクはもう行くね。助けてくれてありがとう。もしボクたちの住処の近くに来たら遊びに来てよ。じいちゃんにも紹介したいし」
「竜の里に入れてくれるの? それはうれしいな」
ドラゴンたちは、他の種族と会わないよう自分たちだけの住処を持っている。
そこは竜の里とか、竜の楽園とか呼ばれていて、結界によって他の種族は見つけることもできないようになってるんだ。
中に入るには竜の信頼を得て、招いてもらわないといけない。
それができる人間は、ほんの一握りだろう。
「じゃあまたね」
ドラゴンが背中の翼を一度羽ばたかせると、僕たちの何倍もありそうな巨体が一気に空に舞い上がった。
そのまま上空で何度か旋回すると、元来た方角へと飛び去っていった。
「それじゃあ僕たちも家に帰ろうか」
色々あったけど、なんとか無事にすんでよかった。
「そういえばおなかも空いてきました。早くカインさんのご飯が食べたいです!」
「え、今食べたばかりじゃ」
「なにいってるんですかカインさん。竜の鱗はご飯じゃないですよ」
ライムに笑われてしまう。
そりゃご飯じゃないけど、区別がわからないよ。




