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全力テンプテーション

「ひょっとしてアナタ、見かけによらず美人と遊び慣れているってことかしら……?」


 そういわれてみれば確かに、ライムをはじめとしてみんな魅力的な女の子が多い気がする。

 そういう意味では見慣れているといえるかもしれない。

 でも遊び慣れているとかそういうんじゃないと思うんだけどな……。


 それにやっぱり誰でもいいというわけじゃないというか……。

 いや決して僕に意気地がないとかそういうことじゃなくて、誰なのかも知らない女の人とそういうことをするのは問題があると思うし……。


 手を伸ばしたくなる気持ちは分かるけど、そこを我慢するのが男の甲斐性だと思うんだ。うん。

 だから僕に度胸がないわけじゃない。

 むしろあるといえるはずだ。

 ……いえるよね?


「なんなのアナタ……。いくら耐性が高いといっても、ワタクシの魅力にあらがえるはずがないのに……。こうなったらしかたないわね。強硬手段よ」


 女の人がほっそりとした両手で僕の顔をつかむと、そのまま自分の顔を近づけてきた。

 いったいなにをするつもりなんだろうと思って身構えたけど、至近距離から僕の目をのぞき込んでくるだけだった。

 まるで瞳を密着させようとするかのような距離だ。


 力強い視線を正面からのぞき込むと、なぜだかその瞳から目が離せなくなった。

 まるで魔法にでもかかったみたいだ。

 深く吸い込まれるような瞳に、僕の意識まで吸い寄せられてしまう。


 女の人の声が幾重にも重なって響いた。


「身も心もワタクシのものになりなさい。<テンプテーション>」


 瞳が赤く光る。

 その光を直視した僕は、意識が薄れていくのを感じた。

 お茶の入ったコップに、大量の水を流し込んだら、薄れて元の味がわからなくなってしまうように……。

 薄れ、拡散し、自分の形を見失っていく。

 ただぼんやりとしたモヤのようなものだけが僕の頭の中にあった。


 女の人が妖しく笑う。


「フフ……。これでアナタの心はもうワタクシのもの。強力すぎて心が壊れてしまうから使いたくはなかったんだけど……。抵抗するアナタが悪いんだからね」


 その声を僕はぼんやりと聞いていた。

 すぐ目の前のはずなのに、なぜだかものすごく遠くから響いてくるかのような、そんな変な感じだ。

 それに頭もふらふらする。

 なんだか風邪を引いた時みたいだ。


「もう自分の意志もほとんど残っていないかしら? そうね、まずは立ち上がりなさい」


 女の人の声が頭の奥にまで響きわたる。

 その声を聞いて僕は……。


「えっと、ごめん。なんか頭がぼーっとして、体もうまく動かないんだ」


「……ッ!? ど、どうしてワタクシの命令を拒絶できるの!?」


「いや、立ち上がりたいんだけど、体がうまく動かなくて……」


「あの方の力を借りた<テンプテーション>なのよ? 神さえ従わせる力があるはずなのに……。普通の人間に抵抗なんて不可能。アナタの中にいったいどんな力が宿っているというの……」


 そういうと、僕の顔を乱暴につかんでもう一度近づけてきた。


「だったら今度は手加減なしの全力で行くわ。廃人になっても恨まないでね。<テンプテーション>!」


 女の人の瞳が再度赤く光る。

 さっきより何倍も強い光だ。

 光が瞳を通じて僕の中に流れ込んでくる感触があったかと思うと、急に逆流するような感覚があった。


「……ッ!!」


 女の人が弾かれるように顔を上げる。

 瞳を手で押さえながらうめいた。


「魔法を返された!? ただの人間にどうしてそんなことが……!」


「えっと、大丈夫……?」


 女の人の様子がただ事ではなかったので、心配になって手を伸ばす。

 僕の指先がかすかに触れたところで、女の人が飛び退くように僕から離れた。


「ひゃあっ!? どうして触られただけでこんなに胸がドキドキするの……? まさか逆にワタクシが魅了魔法に……?」


 なんだか驚いたようにつぶやいていたけど、まだぼーっとする僕の頭ではうまく聞き取れなかった。

 どうも具合が悪そうに見えるけど……。


「しかたないわ、ここは一時撤退ですわ……!」


 そう言うと急に視界が白く光り、元の部屋に戻った。

 女の人の姿は見えなくなっていたし、僕が寝ていたベッドもソファに戻っている。


 やっぱりさっきまでのは夢だったみたいだね。

 それにしてもずいぶん変な夢だったなあ。

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