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ドリームキャッチャー

 夜中に誰かが乗っかってくるのを感じて目を覚ました。

 ソファで寝ている僕の上に誰かがまたがっているみたいだ。


 うーん、またライムかな……?

 寝るときは別々にするものなんだよっていつも教えてるんだけどなあ……。


 仕方なく目を開ける。

 だけど、僕の目に映ったものは、見覚えのない場所だった。

 ソファで寝ていたはずなのになぜだか豪華なベッドの上にいるし、周囲は奇妙なもやのようなものに包まれていた。

 ベッドの周囲の空気も全体的にピンク色で、なんというかこう、大人な雰囲気を出している。


 なんだろう。

 夢にしては妙に生々しいというか、現実とかけ離れすぎている気がする。


「あら、起きたのね」


 聞き慣れない女の人の声に僕は目を前へと向けた。

 てっきりライムが僕のところに来たと思ってたんだけど、そこに見えたのはいつもの鮮やかな金髪ではなく、真っ赤な口紅が特徴的な大人の女性だった。


 見たこともないほど美しい人が、裸のまま僕の上にまたがっている。

 どうしてこんな状況になっているのか混乱する僕に向けて、しとやかに微笑みかけた。


「ねえ、ワタクシと気持ちイイコトしましょう……?」


 耳から溶かすような声だった。

 あまりにも魅惑的な声にめまいすら感じたけど、なんとか意識を取り戻す。

 あぶないあぶない。危うく理性を失うところだったよ。


「えっと、君は誰だっけ?」


 間違いなく会うのは初めてだし、こんなふうに誘われるような関係の女性なんて僕には心当たりがない。

 だからたずねたんだけど、女の人はものすごく驚いたようだった。


「まさか、ワタクシのチャームが効いていないの? ……なるほど。さすがはあのお方が目をつけるだけのことはあるわね。そう簡単にはいかないってわけ」


 僕の体に肌を重ねるようにして覆いかぶさると、そのまま僕の体の上をにじりよってくる。

 ただでさえ直視するのも難しいほどの美人で、しかも全裸だ。

 思わず視線を逸らそうとしたけれど、なぜだか体が動かなかった。

 いわゆる金縛りみたいになっている。


 女の人は動けない僕の顔に近づくと、耳元でささやいた。


「ガマンしないで。気持ちいいこと、たくさんしたいでしょう……?」


 声が頭の中で反響する。

 普通の声じゃない。

 なにか特別な力が働いているかのようだった。

 さらに全身の感覚まで鋭くなったみたいで、密着している女性の体の形が見なくてもハッキリと感じられた。


「ほら、その手でワタクシに触れなさい。どこでも好きなところをさわっていいのよ。胸かしら? それとも、アソコがいいかしら……?」


 僕の腕が少しだけ動かせるようになった。

 力を込めるとゆっくりと持ち上がる。


 女の人が赤い唇を怪しげにつり上げた。

 真っ赤な舌をのぞかせて唇をなめる。

 その姿を見て僕はなぜだか蛇を連想してしまった。

 獲物を前に舌なめずりする蛇のようだと。


「ふふ、そうよ。欲望に身を任せなさい。すべてを忘れて快楽に身をゆだねるの。淫らな夢の中で、アナタの身も心もワタクシのものにしてあげる……」


 僕は自由になった腕を持ち上げて女の人へと向けると、つかんだシーツをその肩にかけて上げた。


「そんな裸でいたら風邪を引いちゃうよ」


 いくら周囲が夢っぽいといっても、裸のままで平気なわけがないからね。

 だからそういったんだけど、女の人はものすごく驚いた表情になった。


「な、なんでワタクシに手を出さないのよ!」


「えっ、そんなこといわれても……」


「いくらチャームが効きにくいからっていっても、キレイなお姉さんが嫌いな男なんているわけないでしょう! こんな美人に誘われたんだから、さっさと獣のように襲いなさいよ!」


「ええっ!? 確かにものすごい美人だとは思うけど……」


 だからといって誰にでも手を出していいわけがないよね。

 しかも知らない人ならなおさらだ。

 それに大切なのは見た目だけじゃなくて、性格とかも大事だと思うし……。


 女の人がじいっと僕を見つめる。

 かと思うと、いきなり僕の股間に手を伸ばしてそこについているものを握りしめた。


「ひぁっ!? な、なに……!?」


「いえ、あまりにも反応が薄いから、チンコが付いてないんじゃないかと思って」


「そんなわけないよ……」


 僕だって一応男なんだし。


「確かにそうだったわね。……それにしては反応が薄いわね。今のワタクシは魔法で魅力を上げているのよ。普通なら世界一の美女に映るはず。それなのにその程度なんて……。ひょっとしてアナタ、見かけによらず美人と遊び慣れているってことかしら……?」


 なんだか不名誉な納得のされ方をしている気がするなあ……。

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