私もまだまだだからな
「武道大会の参加者としてかなりの人数が集まっているから、予選はだいぶ前からはじめられていたのだが、その予選ももうすぐ終わろうとしている。勝った者も負けた者も大騒ぎをするせいで、毎日事件が絶えなくてな」
「それはご苦労様です」
「なに、王都の治安を維持するのも騎士団の仕事だからな。それに、騒ぎを起こすものの、それも含めて市民が楽しんでいるのなら大目には見るさ。忙しいことは忙しいが、こういう忙しさならいくらでも構わないよ」
そういって屈託のない笑みを浮かべた。
きっと本当に大変なんだろうけど、軽く笑って流せるところが騎士団総長を任されている理由のひとつなのかもしれないね。
強いからとか、家柄がいいからとか、それだけじゃない理由があると思うんだ。
「とはいえ本戦が近くなってくるにつれて騒ぎも多くなってくる。万が一に備えるためにも、一度鍛え直しておきたいのだ」
「アルフォードさんは十分強いと思っていたんですけど、それでもダメなんですか」
「そういってもらえるのはうれしいが、ライム君に比べれば私なんてまだまだだろう」
「それはまあ、ライムは僕らとは違うといいますか……」
アルフォードさんにはライムが人間ではなくモンスターが変身したものであることは教えてある。
「もちろんライム君が悪さをすると思っているわけではない。いざとなれば私たちの助けにもなってくれるだろう。だが、世界は広いということを、ドラゴンと戦ったときに痛感したのだよ」
以前にアルフォードさんの率いる騎士団がドラゴンに襲撃されたことがある。
たった一匹のドラゴン相手に騎士団は壊滅寸前まで追いつめられてしまい、そこを僕たちが助けたんだ。
僕たちが助けたというか、ライムが倒してくれたから、僕はほとんどなにもしなかったんだけど。
ちなみにそのときのドラゴンがエルで、つまり最強種のエルダードラゴンだったんだから勝てないのは仕方ないんだけど。
アルフォードさんはそうは思っていないみたいだった。
「私も一時はそれなりに強いほうではと自惚れていたこともあったが、あのときのドラゴンと戦ったときや、ライム君に出会ってまだまだだと痛感したのだ。この王都にドラゴンが襲撃してくるようなことはないかもしれないが、いざというときに国を守れないようでは騎士失格だ。そのためにも鍛錬せねばならないだろう」
「わかりました。ライムのことなので僕一人では決められませんけど、明日頼んでみます」
「かたじけない。騎士団総長である私が民間人である君たちにこのようなことを頼むなんて、恥ずかしい限りなのだが」
「そんなことありませんよ。そんなに強いのにまだまだ上を目指すなんてさすがだと思います」
その向上心は僕も見習わないといけないよね。
「それと、明日はエルも呼んでいいですか」
「あのかわいらしいお嬢さんもかね? もちろん構わない。かわいい女の子に見守られているほうが力も出るというものだからな」
そういって軽快に笑う。
きっと見学に来るだけだと思ったから、冗談をいってくれたんだろう。
エルがあのときのエルダードラゴンだと知ったらどんな顔をするかな。




