アルフォードの願い
アルフォードさんのいうとおり、階段を一番上まであがるとアルフォードさんの部屋はすぐにわかった。
ちなみに今は僕一人だ。
僕が出かけると聞くとライムも最初は一緒に行きたがったんだけど、行き先がアルフォードさんの部屋だとわかるとすぐに興味を失ったみたいなんだ。
人間の雄には興味がないとかなんとか。
そのかわり、すぐに戻ってきてくださいね、とベッドの上でニコニコしながらいってきた。
できれば僕もそうしたいけど、すぐに戻ってこれるかどうかは、アルフォードさん次第かなあ……。
扉の前で立ち止まると、一度深く深呼吸してから扉を叩く。
アルフォードさんの声が中からすぐに響いた。
「カイン君かね? 入ってくれたまえ」
「あの、失礼します……」
扉を開けると、中はいかにも騎士の人らしい質実剛健な部屋だった。
調度品のような物はひとつもなく、テーブルとイス、あとは武具の類くらいしか見あたらない。
ちなみに、見える範囲に寝具のような物は見あたらなかった。いや他意はないんだけど。
アルフォードさんはテーブルでなにかの仕事をしている。
「仕事中でしたか? それならあとで出直しても……」
「いや、大丈夫だ。それにこちらから呼んだのだ、二度手間をかけさせるわけにはいかないだろう」
仕事の手を止めて立ち上がる。
今更だけど、立ち上がったアルフォードさんは、僕より一回り以上も大きかった。
騎士として鍛えているから当たり前なんだけど。
もしアルフォードさんに襲われたら……、僕に抵抗することはできないだろう……。
「あの、それで用というのはいったい……」
「そのことなんだが、実はライム君の力を貸してもらいたいのだ」
「えっ、ライムをですか」
それは予想していなかったので驚いてしまった。
いやまあなにを想像していたのかはおいておくとして……。
それにしてもライムを貸してほしいとは……。
まさか僕と……なんて本当にあるとは思っていたわけじゃなかったけど、ライムと……となると、それはそれで止めなければいけない気がするというか……。
「実はここのところ腕が鈍っている気がしてね。ライム君に訓練の相手をしてもらいたいんだ」
「あ、ああ。なるほど。そういうことでしたか」
騎士の人がすることといったら訓練に決まってるよね。
うんうん。もちろんわかってたよ?
ライムは普通の女の子の姿をしているけど、その正体は幻のレアモンスターであり、超高レベルなゴールデンスライムだ。
普通の人間よりもはるかに強く、ドラゴン相手でもワンパンで倒したこともある。
確かに訓練の相手には向いているといえなくもないのかもしれない。
「例の武道大会のおかげで荒くれ者も集まっているし、それに便乗してかきな臭い動きもいくつか見られる。万が一のときのために訓練しておきたいと思っていてな」
「そういえば武道大会なんてのが開かれているんでしたっけ」
それのせいで僕も宿が取れないんだった。
武道大会というくらいなんだから、きっと各地から腕自慢の人たちが集まっているんだろう。
そういわれれば、冒険者協会もいつもよりそういった人たちが多くなっているような気がしたけど、それが理由だったのかもしれないね。
シルヴィアも街のパトロールをしているみたいだったし、王都の警備は強化されているのかもしれないな。




