薔薇色のお誘い
アルフォードさんの館で夕食をごちそうになったあと、部屋に戻る前にアルフォードさんから声をかけられた。
「カイン君、あとで私の部屋に来てくれないか」
「えっ、アルフォードさんの部屋に、ですか?」
「ああ、私の部屋は階段を一番上に上がった目の前にある。くればすぐわかるだろう」
そういえばシルヴィアの部屋も、家の最上階にあったんだっけ。
ずいぶん大きな部屋で驚いたのを覚えている。
ああいや、それ以上にとても緊張していたんだっけ。
あのとき僕はシルヴィアにマッサージを……。
当時のことを思い出してしまい、顔が熱くなるのを自覚した。
今はアルフォードさんと話しているんだ。
シルヴィアの時のようなことになるはずがない。
僕は軽く首を振って記憶を頭の中から追い払った。
「えっと、それは、なにか僕に用があるということですか……?」
「まあそうだ。ひとつ頼みたいことがあってな。ここで話すのもなんだから、私の部屋に来て欲しいのだ」
そういえば冒険者協会で会ったときにも、そんなことをいっていたっけ。
騎士団隊長のアルフォードさんが、家では話せないようなことを頼みたい……。
そういえばシルヴィアも同じようなことをいってた気が……。
まさかとは思うけど……。
「えっと、用事とはいったいなんですか?」
「いや、それはだな……。家の者に聞かれるのは少々恥ずかしい話ではあるので、ここでは言いにくいというか……」
なんかアルフォードさんが恥ずかしがってる!?
ま、ま、ま、まさか、アルフォードさんもマッサージをして欲しいとか言い出さないよね!?
……はっ!? そういえばニアも、貴族のあいだでは男色がはやっているって……!?
男色って確か、男性同士で愛し合うことだよね……?
もちろんアルフォードさんにどんな趣味があったとしても僕に口を出す権利なんてないんだけど、僕にそういう趣味はないし……。
「ええと、アルフォードさんの頼みたいことというのは、僕がなにかをするようなことなのですか……?」
「ああいや、カイン君がなにかするようなことはない」
「そ、そうなんですか」
ちょっとだけほっとした。
もちろん信じてたけどね。
「主に私が体を動かすだけだ」
ひぃ!
「そ、その、運動というのは、具体的にはどのような……?」
「はっはっは。私は騎士だぞ。体を動かすといえばひとつに決まっているだろう」
「それは、騎士のあいだではやっているという……?」
「そうだな。皆毎日やっていることではあるな」
ひぃぃぃ! やっぱり!
「久しぶりに体を動かすのも気持ちがいいだろうからな。もちろんカイン君は見てるだけで問題ない。すべて私に任せてくれたまえ」
身も心も任せてほしい!?
とはいえ、お世話になっている身なんだから、誘いを断るわけにもいかないよね……。
「ええと、その、では後で伺わせていただきたいと思います……」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だ。それにわたしとカイン君の仲だろう。もっと気楽にして欲しい」
アルフォードさんはそういって笑っていたけど、僕はとてもそんな気にはなれなかった。




