アルフォード宅にて
アルフォードさんの家はすごい豪邸だった。
シルヴィアの家もすごかったけど、こっちもすごい。
そういえばカイゼルさんの家もすごい大きさだったっけ。
王都に来てから大きな家ばかりを見ているためか、なんだか感覚が麻痺してくるなあ。
「はあー、こっちの人間の家はどれも大きいですね」
「やはり騎士団長様となると、お住まいも立派になるのですね」
ライムとフィアも感嘆しているようだ。
館の扉に近づくと、こちらからなにかをするより先に向こうから開いた。
現れたメイドさんが恭しく頭を下げる。
「カイン様でございますね。ご主人様より話は伺っております。どうぞ中へ」
そういって案内されてしまった。
もしかして僕が来るまで扉の裏でずっと待機してたのかな。
なんだか別世界過ぎて落ち着かないなあ。
玄関を抜けて中にはいると、すぐにアルフォードさんもやってきた。
鎧はつけていなかったけど、腰には長剣を差していた。
家の中でも警戒を怠らないのは、いかにもアルフォードさんらしいね。
「来てくれたかカイン君。おや、そちらの女性は」
「フィアと申します」
「ちょっとわけがあって、できればフィアにも部屋を貸してあげてほしいんだ」
「ふむ……。部屋は余っているからそれは問題ないが……」
なにかを考えるようにじっとフィアを見つめる。
フィアもまたニコリとした笑みでそれを見つめ返した。
二人の視線が真正面からぶつかりあう。
アルフォードさんの手が一瞬剣の柄へと動いた気がしたけど、気のせいだったみたいで、すぐ元の位置に戻った。
「まあカイン君の知り合いならば問題ないだろう。すぐに用意させるから少しだけ待っててくれ。ああ、ちょっと悪いがそこの君、カイン君たちを部屋に案内してくれ。それと客人が一人増えたから、もう一部屋至急用意してくれ」
「かしこまりました」
そばに控えていた使用人が恭しく頭を下げる。
「それではご案内いたします。皆様こちらにどうぞ」
使用人の人に案内されて、二階の部屋へとやってきた。
扉を開けると、やっぱり大きな部屋だった。
10人くらいは楽に入れそうだ。
中には大きなテーブルがあり、そこにショートカットの女の子が座っていた。
「あ、キミたちもやっときたんだね」
「待たせてごめんねエル」
フィアと会う用事があったから、先にアルフォードさんの家で待っててもらっていたんだ。
「……やっぱりこのドラゴンも一緒ですか……」
「まあかわいらしいお嬢様ですね。こちらもアナタのお知り合いなのですか?」
ライムが低い声でつぶやき、フィアが明るくたずねる。
そういえばフィアとエルは会うの初めてだっけ。
エルは立ち上がると、フィアの前まで移動した。
そのまま無言でじっと見つめる。
「あの、なにか……?」
気圧されるように一歩後ろに下がるフィア。
すかさずエルがその手を取った。
握手というよりは、まるで逃がさないように。
「なんのつもりか知らないけれど、カレに手を出したら許さないからね」
ニッコリと笑みを浮かべる。
いつもは静かに微笑するエルにしては珍しい、誰の目にもわかるほどハッキリとした笑みだった。
フィアも深く静かにほほえむ。
「……フフ、アナタもこの人が大好きなのね」
「ボクの大切な友達だからね」
「心配しなくても、悪いことは何もいたしませんわ。一緒にお仕事をさせてもらっているくらいですから。それに、今日は部屋を借りるだけです」
「それならいいんだけど」
エルが手を離すと、フィアはさらに一歩離れるように後ろへと下がった。
表情は変わらなかったけど、少しだけ引きつっているようにも見えたのは僕の気のせいかな。
フィアは僕に視線を向けると、少しだけ微笑んだ。
「まったく、こんなにたくさんのヒトに好かれているなんて、少し妬けてしまいますわね」
「みんなには良くしてもらってるからね」
「ワタクシはお邪魔みたいですし、お先に失礼させてもらいますわ。それではまた明日お会いしましょう」
そういうととなりの部屋へと移っていった。
フィアの部屋は僕らのとなりらしいね。
「エルもフィアのことが嫌いなの?」
「嫌いっていうか、なんだろう、うまくいえないけど、油断ならない感じかな」
「わたしはあいつのことは認めてませんからね!」
エルはそういってくれたけど、ライムはやっぱり嫌っているみたいだった。
そんなに悪い人じゃないと思うんだけどなあ。




