王都騎士団総長
ライムが全身をうねうねさせて喜んでいると、冒険者協会の入り口付近が騒がしくなりはじめた。
どうやらまた誰かが来たみたいだね。
でもエルが来たときとは少し雰囲気が違っている。
すごい人が来て驚いているというよりは、意外な人が来てびっくりしているかのような、そんな感じだ。
いったい誰が来たんだろう。
興味を引かれて入り口の方に目を向けてみる。
すると、大柄な鎧姿の男性騎士が僕の方に向かって歩いてくるところだった。
その姿を見て思わず立ち上がる。
「アルフォードさん! どうしてここに?」
アルフォードさんは王都騎士団の総長を務めている、騎士団の中で一番偉い人だ。
忙しい人でもあるだけに普通はこんな冒険者協会なんかには現れない。
周囲が騒がしくなったのもきっとそれが原因だろう。
「やあカイン君、久しぶりだな」
アルフォードさんは僕に向けてさわやかな笑みを浮かべた。
年齢的には40くらいはいってるはずだけど、それを感じさせない若々しい笑みだった。
「冒険者協会にカイン君がいるときいてね。果ての草原では世話になったな。だいぶ助けられたと聞いている。改めて礼を述べさせてくれ」
「そんな、僕は大したことはしてません。案内しただけですから。もしかして、わざわざお礼を言うためだけに来たんですか?」
「もちろんそれもあるが、ちょうど頼みたいことがあったから顔を出させてもらったんだ」
「そうなんですか。僕なんかでお役に立てることがあったら遠慮なくいってください」
「そういってもらえるとこちらも気が楽だな。頼みといっても大したことではないのだが。実は……」
そう言いかけたところで、テーブルに座る別の人物に目を向けた。
「シルヴィアもカイン君と一緒にいたのか」
呆けていたシルヴィアは、その声で我に返ったみたいだった。
勢いよく立ち上がると、直立不動の姿勢になる。
「こ、これはアルフォード様! これはその、たまたまカイン殿と会ったといいますか、けっしてここで帰りを心待ちにしていたわけでは!」
急によくわからない言い訳を述べはじめた。
アルフォードさんは鷹揚にうなずく。
「カイン君には騎士としても見習うべき点は多いからな。しっかり勉強するといい」
「は、はい! そうなんです! カイン殿には見習うべきことが多いため、こうしてご一緒させて頂いているのです! ええ、本当に、たくさんのことを教えてもらったというか、知らない扉を開いてしまったというか……、もちろん騎士のことでほかに他意はありませんので!」
「そ、そうか。よくわからないが、見識を広めるのはいいことだ」
シルヴィアの勢いに押されるようにしてうなずいた。
「それにしてもカイン君の周りはずいぶん華やかだな」
ライムやシルヴィアはアルフォードさんも会ったことがあるけど、エルやニアは初対面だからね。
アルフォードさんはじっとエルの姿を見つめた。
「ふむ、君はなにか、どこかで会ったことがある気がするのだが……」
思わずギクリとしてしまう。
エルの正体はエルダードラゴンで、それはかつてアルフォードさんが率いていた騎士団と戦ったこともあるんだよね。
だからどこかで会ったことがあるというのは正しいんだ。
一目見ただけで見抜くなんてさすがだよね。
まあ、アルフォードさんにならエルの正体を教えても平気だと思うけど……。
エルの方もまたアルフォードさんをじっと見つめていた。
けどやがて首をひねる。
「うーん、どこかで見たことある気もするけど、この街にきてから色んな人間と会ってるせいでよくわからないな」
あのときはエルも我を忘れていたといってたし、覚えてないのも無理はないかもね。
アルフォードさんもうなずいて答えた。
「確かに王都は人が多いからな。あるいはどこかですれ違っているのかもしれないな。変なことを聞いてすまなかった」
「大丈夫、気にしてないよ」
「そういってもらえるとこちらも気が楽だな。
ところでカイン君はこのあとなにか用事があるかね?」
「実は今日の宿が決まっていないので、どこにするか探そうと思っていました」
僕の言葉に真っ先に反応したのはシルヴィアだった。
「なにを心配する必要がある。また私の家に泊まればいいではないか。すでにカイン殿専用の部屋も用意させている。私の家は、その、ほとんどカイン殿の家でもあるのだから、好きに使ってもらっても構わないんだぞ」
シルヴィアにそういってもらえるのはすごくありがたいんだけど、すでに王家の丘などでたくさんお世話になっている。
あんまり迷惑をかけてばっかりというわけにもいかないと思うんだ。
「それに、カイン殿には私との関係を今一度じっくりと確認する必要がありそうだしな……」
急に暗い目つきになってそういった。
ええっ、いったいなにを確認するつもりなんだろう……。
なんかちょっと怖いんだけど……。




