もちろん好きだよ
「ななな、なにを言ってるんですかいきなり!!」
慌てるニアだったけど、エルは落ち着いた態度のまま自然に答える。
「ボクは人間の感情がある程度わかるんだ。表面的なものだけだから細かいところまでは読みとれないんだけど。でも、ニアは最初からずっとそういう感情だったから、どうしてなのかなと思って」
「ど、どうしてって……! 師匠、なんなんですかコイツ!」
「ええと、ここだけの秘密なんだけど……」
声をひそめてニアにだけ聞こえる声で教える。
「エルはドラゴンが人間の姿に変身したものなんだ。だから、人間の感情が読みとれるみたいで……」
言葉の途中だったけど、ニアの顔は耳まで真っ赤になっていた。
「どうしたの?」
「師匠の顔が近くて、その……」
「ああ、ごめん。近すぎたかな」
確かにいきなり近づいたらビックリしちゃうよね。
離れると、ニアが少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「……あっ、嫌だったわけではなくて、むしろ嬉しかったのですが……」
もじもじとつぶやく。
それから、ためらいがちに僕を見上げてきた。
「あの、それで、あのドラゴン女がいってたことなんですけど……」
「僕のことが好きってこと?」
「……ッ!! あ、あの、それは……」
「うん、もちろんわかってるよ」
僕は昔ニアを助けたことがあって、ニアはそのときのことを未だに覚えているみたいなんだ。
それが冒険者になったきっかけだともいっていた。
それ以来ずっと慕ってくれているみたいなんだよね。
時々それがいきすぎるなと思うこともあるけど……。
でも、ニアがずっと一人で暮らしていた寂しさを考えれば、それも仕方がないかなと思う。
「あの、それってつまり……」
「もちろん僕もニアが好きだよ」
「!?!?!?!?」
ニアはこんな小さな体なのに一人で頑張ってきた。
今ではS級とまでいわれる立派な冒険者だ。
それにとてもかわいらしいしね。
そんな子に好かれるなんてとても光栄なことだ。
できる限り力になってあげたいと思うのは当然だし、嫌いになるわけがないよ。
なんだけど……。
「はわわわわぁ~……」
感謝の気持ちを伝えただけだったんだけど、ニアは腰が砕けたようにヘナヘナとイスの上に座り込んでしまった。
よっぽどうれしかったのかなあ。
なんだか恐縮しちゃうよね。
「か、カイン殿! 私は、私はどうなのだ!!」
今度はシルヴィアが立ち上がった。
「あっ、シルヴィアは、その……」
もちろん尊敬しているし、すごい人だと思う。
しかも貴族で、騎士団長で、王族といわれても信じるほど美しい。
レベル1でスキルもない僕なんかとは全然違うんだ。
だけどそんな僕のことを、シルヴィアは騎士の鑑だといって尊敬してくれている。
正直そんな自覚は全然ないんだけど、僕なんかでもシルヴィアの役に立てるのはとても嬉しいことだ。
ことなんだけど……。
コルドさんとの話を思い出してしまい、顔が熱くなるのを自覚した。
あの言い方だと、まるでシルヴィアが僕のことを……。
もちろん何かの勘違いなんだとは思うけど……。
うう……。意識すればするほど恥ずかしくなってくるよ……。
「もちろん、シルヴィアのことは、嫌いじゃないよ……」
「じゃあなぜ目を逸らす!?」
だって……。
なんだか恥ずかしくて……。
「いや、これはシルヴィアのせいじゃなくて……。その、ごめん……」
「なぜ謝るのだ!?」
シルヴィアがショックを受けたように立ちすくむ。
それから、確認するように語りかけてきた。
「そこのちびっ子のように、私にもその、好きなら好きと、いってくれてもかまわないのだぞ……?」
「それだけはちょっと……」
「それだけはちょっと!?」
ニアは妹みたいなものだけど、シルヴィアはちょっと違うというか、僕のことを好きなんだと考えただけで恥ずかしくなってしまう。
好きだなんてとても口には出せないよ。
「むうぅ~~~!!」
それまで黙って聞いていたライムが急に立ち上がった。
「ダメですー! カインさんはわたしだけを好きなんですー!!」
そういって僕の目を隠すように抱きついてくる。
おかげで、ライムの胸の部分が、ちょうど僕の顔に当たる形になって……。
「ら、ライム、これはちょっとまずいっていうか、離してもらえると……」
「イヤですー! わたしだけを見てくれないとイヤなんですー!」
ますますしがみつく力を強くする。
おかげでますます当たる力が強くなっていって……。
そんな僕らの横で、エルの「やっぱり人間は面白いなあ」と笑う声が聞こえた。




