ドラゴンスレイヤー誕生
眠り薬を吸い込んだドラゴンは気持ちよさそうに寝ている。
「我が騎士団でも傷ひとつ付けられなかったのに、それを君たち二人だけで無力化するなんて……。君たちはいったい何者なんだ……」
「僕はただのレベル1の冒険者ですよ」
「レベル1だって!? 信じられん! ドラゴンといえばレベル200を超えた熟練冒険者でも勝てるかどうかわからない相手だぞ!」
そういわれても、事実なんだからしょうがない。
はじめは信じてくれなかったアルフォードさんだったけど、冒険者カードを見せたらさすがに信用してくれた。
「まさか本当だとは……」
冒険者カードを驚愕の表情で見つめている。
むしろレベル1だからこそ、こうしてモンスターと戦わずにすむ方法ばかり探してきたんだ。
だからモンスターのことはたくさん研究したし、効く薬草とかアイテムの作り方もたくさん作った。
モンスターの観察は僕の趣味にもなってるしね。
「いや、確かにカイン君もすごいが、それよりもライム君だ。ドラゴンを素手で倒すなんて信じられない。今でも夢を見てるのではと疑っているくらいだ。まさか君もレベルは1なのか?」
ライムが首を傾げる。
「レベルとかはよくわからないです。その、冒険者カード? ですか? それは持ってないので」
「カードを持ってない……!? 今時そんな人がいるとは」
まあ普通はそうだよね。
冒険者カードでできることは多いし、自分のスキルを知るためにもカードは必要だ。
この世界で冒険者カードを持ってないなんてよほどの事情がある人以外はあり得ない。
なにか特別な事情があるか、あるいは、情報を知られたくない犯罪者か。
このままライムの正体を黙っていても、アルフォードさんに疑われるだけだろう。
ここは正直に言うしかない。
「ライムは実は、人間じゃないんです」
「人間じゃない? それはどういう意味なんだ?」
うーん、説明するより実際に見てもらったほうが早いかな。
「ライム、他の人に姿を変えられる?」
「はい、わかりました」
ライムの全身がどろどろと溶けて崩れると、すぐに別の女性の姿に……僕もよく知っているセーラの姿になった。
アルフォードさんはその様子をぽかんとしたまま見つめていた。
「そういうわけなんです。このことは秘密にしててもらえませんか」
ライムが幻の超レアモンスターであることだけは伏せておいた。
アルフォードさんを信用してないわけじゃないんだけど、さすがにそこまではどうしてもね。
アルフォードさんが我に返ったようにうなずく。
「あ、ああ。事情は理解した。もちろん誰にもいわない。君たちには命を助けられているし、人に危害を加えることもなさそうだから、報告の必要はないだろう」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはむしろこちらのほうだ。ただ……ドラゴンが倒されたところは、おそらく部下たちにも見られているだろう。君たちのことを隠すためには、ドラゴンを退治したのは私ということにしなければならない」
「もちろん大丈夫ですよ。むしろそうしていただいた方がいいくらいです」
ドラゴンを退治したとなれば、ドラゴンスレイヤーの称号を受けることになる。
いうまでもなく誰もがあこがれる最強の称号だ。
そんなものを僕やライムがもらうことになったら注目の的となってしまう。
レベル1の僕には分不相応だし、ライムに注目が集まるのはまずい。
むしろ頼んででもアルフォードさんにもらって欲しかったくらいだ。
「すまない。本来は君たちの名誉なのに」
「気にしないでください。そういう名誉はアルフォードさんのほうがふさわしいと思います」
「この恩は後ほど必ず返す。この剣に懸けて誓おう」
片膝を地面に突き、剣を垂直に構える。
騎士については詳しくないけど、騎士団の隊長が持つ剣はどれも、国王から直々に賜ったものだと聞いたことがある。
それに懸けて誓うということは、きっと特別なことなんだろう。
僕たち庶民なんて貴族の人からしてみたら取るに足らない存在なはずだけど、こうして敬意を払ってくれるのがアルフォードさんの人柄なんだろうな。
「私は王都の第一騎士団隊長アルフォード=フォン=バウエルンだ。もしなにか困ったことがあった場合は遠慮なく連絡してくれ。全力で君たちの剣となろう」
アルフォードさんは一礼すると、駆け足で森の奥へと向かっていった。
先に逃げていった騎士団の人たちと合流するつもりなんだろう。
「私たちも帰りますか?」
「心配ないとは思うけど、一応ドラゴンが起きるまで待とうか」
元々人を襲うようなモンスターじゃないから、落ち着きを取り戻せば冷静になると思うけど。




