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キミの気配を感じたから

 冒険者協会の空気が微妙にざわついた。

 入り口のほうが騒がしい。

 どうやら誰かが入ってきたみたいだ。


 とはいえ、冒険者協会には色々な人が来るから、たいていの人にはみんな慣れている。

 S級冒険者のニアや、「自由の風」騎士団団長のシルヴィアがいてもみんなほとんど驚かないくらいだしね。

 だから、こんな風に騒ぎになるなんて珍しいんだ。

 いったい誰が来たんだろう。


 目を向けてみると、ちょうどショートカットの美少女が僕のほうに向かって歩いてくるところだった。

 その子は僕を見つけると、静かな笑みを浮かべた。


「やあ久しぶりだね。キミが帰ってきた気配を感じたから会いに来たよ」


「エル! 久しぶりだね。あれから姿が見えないから心配してたよ。今までどこにいたの」


「ずっとこの街にいたよ。ここは広いし、人間もたくさんいるから、楽しくてついあちこち探検しちゃった」


 そういって屈託なく笑う。

 いつもは落ち着いた態度でいることが多いから、嬉しそうな表情を浮かべているエルはいつも以上に魅力的に見えた。


 だから、周囲がざわついているのもそんなエルの見た目のせい、かと思ったんだけど、少し違っているみたいだった。

 遠巻きにする人たちから話し声が聞こえてくる。


「おい、あの子は誰だ?」

「確かにめちゃくちゃかわいいな。どうしてあんなやつの周りだけ……」

「そこじゃねえ。感じないのか。あの子、相当ヤベえぞ……」

「……そういわれると確かに、なにか妙な気配があるな……」


 そんな感じで話題になっていた。

 さすが王都に集まる熟練の冒険者たち、というべきなのかな。


 エルはショートカットと中性的な顔立ちのせいで美少年にも見えるけど、一応女の子だ。

 一応というのは、エルの正体は伝説の竜エルダードラゴンが人間の姿に変化したものだからなんだ。

 エルダードラゴンには人間のような性別はないみたいで、女の子になったのもたまたまだみたいなことをいっていたし。


 エルはドラゴンなんだけど、人間が大好きで人間の生活に興味があるからこうして人間の姿になっているんだよね。

 王都に来てすぐにどこかに行っちゃったのも、初めての大きな街で興奮しちゃったからみたいだったし。


「人間ってやっぱり面白いね。こんな狭いところにこんなにたくさん住んでるなんて信じられないよ。ボクはずっとじいちゃんと二人しかいなかったから余計にビックリしちゃった」


「王都は人間の街ではかなり大きなほうなんだけどね」


「そうなんだ。だからなのかな。出会った人間はみんなすごく楽しそうだった。不思議な物を作ってる人がいたり、美味しいご飯を食べたり、面白い話を聞かせたりしてくれて、とても楽しかったよ」


 ずいぶん色々なところを観光していたみたいだね。

 いつもは物静かなエルだけど、今日はずいぶんと早口だった。

 きっと本当に楽しかったんだろうな。

 そういう姿を見てると、こっちもついつい笑顔になっちゃうよね。


 エルが屈託のない笑顔のままで続ける。


「それに、人間同士で楽しそうにしてるかと思えば、影ではお互いに殺し合っていたり、不穏な気配のモノが住んでたり、そういう面があるのも人間の街の魅力だよね」


 本当に色々なところにいったんだなあ……。


「エルなら平気だと思うけど、あんまり危ないところには行かないでね」


「大丈夫だよ。ボクだって本当に危険なところには行かないから。ここにはそういうところはあんまりなさそうだったけど」


 まあエルの正体はエルダードラゴンだからね。

 数ある竜種の中でも、始祖竜にもっとも近いといわれる最強種だ。

 並の人間では傷ひとつ付けられないはず。

 そんなエルにとって危険なところなんてそうそうあるわけないよね。


 とはいえ、あんまりないってことは、少しはあるってことなのか。

 やっぱり王都はすごいなあ。


 そんな風にエルと話をしていたら、急に僕に抱きつくライムの力が強くなった。


「……む~」


「どうしたのライム」


「わたしというものがありながら他の女にも手を出すなんて、やっぱりカインさんは浮気者です!」


 そんな感じで怒っていたけど……。


「そういう言葉、どこで覚えてくるの……?」


「カインさんには教えてあげません!」


 つーんとそっぽを向いてしまう。

 でも抱きつく腕を離そうとはしなかった。


 そんな僕らを見てエルが笑い声をあげる。


「そういえばそんな感じの人間のつがいも何人かみたよ。見た目は怒ってるのに感情は幸せそうで、人間って不思議だなあって思ってたんだけど。ライムもずいぶん人間みたいになってきたね」


「……それはつまり、わたしたちが夫婦みたいに見えるってことですか?」


「うん、そうだね。まるで人間の夫婦みたいだよ」


「………………。えへへ~。やっぱりエルはいいドラゴンですね」


 すっかりデレデレの笑顔に戻ってしまった。

 相変わらず変わり身が早いなあ。

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