やくそく
翌朝になると、僕たちは洞窟を出て門兵の詰め所に戻ってきた。
そのあいだライオネルとマイヤーが周囲を警戒してくれていたけど、昨日の男の人が襲ってくる様子はなかった。
やっぱりあれっきりであきらめてくれたようだ。
それよりも、二人とも昨日はあんなに仲良かったのに、今日はなんだかよそよそしいのが気になる。
口数も少ないし、妙に距離をとってるかと思えば、時々視線を合わせて見つめ合ってるし。
いったいどうしたんだろう。
一方ライムは朝からずっと僕の腕に抱きついていて、いつも以上に甘えてきていた。
「カインさん、カインさん♪」
「……ど、どうしたの?」
「なんでもないです。えへへへ~」
なんだかすごく上機嫌だ。
ライムがうれしそうにしているのは僕もうれしいから、それはいいんだけど……。
「あの、ライム、そんなにくっつかれると歩きにくいんだけど……」
「……お嫌でしたか?」
急に落ち込んだ表情になって僕を見上げる。
そんな顔をされると、僕としても強くいえなくなってしまう。
「嫌ってわけじゃないんだけど……」
「だったらずっとこうしていたいです♪」
ぎゅーっと抱きつく力が強くなる。
「さすがにずっとは困るっていうか……」
実際、朝ご飯を食べるときもこの状態だったから、すごく食べにくかった。
それにしても、ライムがこんな状態になったのは、やっぱり昨日のことが原因だよね……。
昨夜のことを思い出して、僕は顔が熱くなるのを自覚した。
すぐそばにあるライムの顔を強く意識してしまって、顔を背けるように視線を逸らしてしまう。
「お二人はいつも仲がいいですね」
先を歩くライオネルがそんなことをいってきた。
ライムがデレデレの表情になる。
「やっぱりそう見えちゃう? えへへ~、仲がいいのはいつもだけど、昨日はとってもいいことがあったんだ!」
輝くような満面の笑みだった。
そんなライムをそばに感じるだけで自分の顔がどんどん熱くなっていくのがわかったけど、ライオネルも少し顔を赤くしていた。
「それは、その……カイン様と、夜になにかを……?」
「ええー、なんでわかっちゃったのかなあ」
口ではそういうものの、全然驚いてるように見えなかった。
ライオネルもちょっと苦笑している。
「ええ、まあ、今日のライム様はとてもうれしそうにされてますので」
「そっかあ。実は昨日、カインさんと約束したの」
約束……。
うう、昨日のことが生々しく思い出されてしまう……。
「約束、ですか」
「うん! だからもう、うれしくってしかたがないの!」
「ライム様は、カイン様が好きなんですね」
「もちろん! いーっぱい大好き!」
両手を広げて「いーっぱい」を表現しながら、ふとライオネルたちに向けて首を傾げた。
「そういえば、ライオネルたちもなんかいいことあったの?」
「えっ!?」
驚いたのはライオネルだけではなく、少し離れたところから話を聞いていたマイヤーもだった。
「えっと、どうしてそう思われるんですか……?」
「うまくいえないけど、そんな感じがするっていうか……、なんか昨日よりも仲がよさそうっていうか……」
僕にはよそよそしそうに感じてたけど、ライムには違うように感じてたみたいだ。
ライオネルが慌てたように言い繕う。
「べ、別に昨夜はなにもありませんでしたよ。昨日はずっと見張りをしてただけで……」
「バカライオネル! 余計なことはいわなくていいのよ……!」
マイヤーが声をひそめて怒っていた。
昨日の夜いったいなにがあったんだろう……。




